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(出久視点)

『オールマイトだ!うひゃー、本物。モノホン!カッケー。デッケーな。本物は違うね。平和の象徴がいま、目の前に!ハトだよ。ハト!昔はさ。平和の象徴、ハトでしたのに。今となってはもう。オールマイトだよ!クルッポー、握手してください!わお肉厚。おいしそう!コトコト煮詰めて角煮にしたい。感激です。オールマイト、わたし感激!』
「は…HAHAHAHA!スゴイな君!?みんなコスチューム取って移動してるっていうのに、意に介さず私の所に来るとは!イイネ!いい度胸をしている!!ヒーローは度胸がなくては、務まらないからね!」
『女は度胸ですから!わたしも、一応女の端くれですから。端っこの、ほんと端っこ。ギリギリですけど、女ですから!あれ。わたし女ですよね?そうさ!わたしが蠍座の女、身剣柄叉です!』
「こ、これまた唐突に名乗ったな!!愉快な子だ、身剣少女!さぁ、君もコスチュームを持って移動するんだ!戦闘訓練の時間だぜ!!」

今日も今日とて、オールマイトはカッコいい。そして今日も今日とて、身剣さんは狂ってる…。

午前中の必修科目の授業を終え、昼休みを挟んで午後。ヒーロー基礎学の授業が始まった!
颯爽と教室に現れたオールマイト。
これから戦闘訓練をするそうだ。まだ概要のわからないそれにドキドキしながら、壁から出てきた棚に並ぶコスチュームを手に取った。
被服控除という雄英とサポート会社のシステムで、みんな思い思いのコスチュームを手に入れた。
クラスのみんなが、オールマイトに指示された通り自分の番号が刻まれたコスチュームのケースを手に入れるために棚に群がる中、身剣さんはニコニコしながらオールマイトに歩み寄った。
そしていつものハチャメチャなマシンガントークをかまし、オールマイトの右手を強引に両手でつかんで握手。ブンブン振っている。
身剣さん…スゴイな。
オールマイト、たじたじしてるよ。ナンバーワンヒーローで平和の象徴をタジタジさせるなんて。身剣さん、只者じゃない。知ってたけど。
オールマイト、内心ものすごく困惑しているだろうな。気持ち、すごくよくわかります。


『わお!かっちゃんくん、ステキなコスチュームだ。ところでその、頭のトゲトゲは何かな。飾り?は…まさか!トゲピー!?トゲピー、目指してるの?』
「ブァカかテメェは!!誰がトゲピーだゴラァアア!!」

各々コスチュームに着替え、グラウンドβに集った。
僕は着替えに手間取ってちょっと遅れてしまった。最後だ。
グラウンドに出ると、ちょうど身剣さんがかっちゃんに絡んでいるところだった。
怖くないのかな。かっちゃんスゴいキレてるのに…怖いもの知らずすぎる。

「あ、デクくん!?かっこいいね!!」

麗日さん…うおお!?
麗日さんのコスチューム、やべえな。僕には刺激が強すぎる。
どうやら要望をあまり書かずに出してパツパツにされたらしい…峰田くんがハイタッチを求めてきた。

『カシャーカシャー。百ちゃん、目線こっちにおくれ。カシャー!イイネ。セクシーだよ!カシャーカシャー』
「な、何ですの…?」

ヤバい会話が聞こえてきたので目を移すと、身剣さんがカメラマンのような動きで八百万さんの周りをぐるぐる回っていた。
両手を顔の前に構え、指でカメラのポーズを…この人の頭の中はどうなってるんだろう。

『あ、こんにちは!』
「え!?こ、こんにちは!?」

ふと身剣さんと目が合ってしまった。僕を見た身剣さんは、屈めていた体を伸ばして僕の前までやって来る。
こんにちはって…マトモだ!

『やあやあ、初めまして!おかしいな。クラスメイトはみんな把握したはずなのに、まだ知らない人がいたとは!まだまだでした。精進します!』
「いっ、いやいやいや!僕!僕です!み、緑谷出久です!!」

気付かれてなかった!
身剣さんはニコニコを崩さずに僕の顔を凝視した。そして、わざとらしくびっくりした顔をする。

『なぬ!?緑谷くんだと。なるほど、トラップか。大変失礼しました!いやあ、覆面だから気付かなかったよ。もう、銀行強盗でもするのかい?ダメだよ緑谷くん!!』
「へ…!?し、しないよ!!」

やっぱり、身剣さん怖いんだよな…。脈絡というか…なんか色々、足りないんだよ…。

「良いじゃないか皆。カッコイイぜ!!」

オールマイトがそうして喋り出すと、身剣さんはニコニコしたまま前を向いた。
オールマイトの方を。
なんでずっとニコニコしてるんだろう。多分これ、作り笑いだと思うんだけど。
身剣さんの笑顔はたまに、目だけがぼんやりしてて、なんだかぞっとする時がある。
彼女のコスチュームは、思いの外マトモなものだった。
一番近いものなら、男物の浴衣だ。
裾が足首の上までの無地の着物に、腰には細い帯を何重かに巻き付けてある。
靴は、何故かビーチサンダル。かかとも固定されるタイプの。
まるで大昔の人みたいだと思った。江戸時代とか。
着物を着ている人なんて珍しいから、つい観察した。
身長低めの身剣さんをじっと見下ろしていると、ふとあることに気付いてぎょっとする。

「あ、ああの…身剣さん。その…こ、こんなこと言うの、アレなんだけど……そのコスチュームだと、動いたら…中、見えちゃうんじゃ……」

着物の前の合わせ目から、胸元が覗いている。
当たり前だ。帯は腰に巻いてある。胸元はその分ルーズになるわけで、ちょっと動いただけではだけてもおかしくない。
は。でもこんなこと言って、セクハラとか言われたらどうしよう。

『大丈夫だよ。ご心配には及びません、緑谷くん。何故なら、ほら。胸には、サラシを巻いてあります!もちろん下にも、スパッツ着用です。ぬかりないよ。とても快適。クールビズ!』

クールビズでは、ないと思う。
身剣さんは、『ほら』と言いながら、少し着物の胸元をつまんで広げた。
慌てて目を逸らす。確かに、彼女の胸には太い包帯みたいなものが隙間なくぐるぐるぎゅうぎゅうに巻かれていた。バッチリ見てんじゃないか僕!
これ、多分相手が身剣さんだから普通に答えてくれただけで。他の女子なら、完璧に引かれて嫌われただろうな…よかった、身剣さんで。それはそれで、間違っている気がするけど。

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