08

相澤先生はすごくとてもいい人みたいだ。
無理を言った。ものすごいわがまま。もはや傲慢。
けれどお返事は。まさかのイエス。多分、イエス。いやに脅迫めいたイエス。

『収穫!春の収穫祭!雄英は本当にいい学校。素晴らしい。いい人しかいないみたいだ。すげえ。それは画期的!校長先生、はんぱない。パネエ。尊敬する。労いたい!ねぎらう…いや、ネギは嫌いなんだけどさ。憧憬!まさに。ね。ね、バッちゃん!』
「誰がバッちゃんだ!殺すぞイカレ女!!」

ホクホクしてたら、登校してきた爆豪くんに怒鳴られた。
爆豪くん、意外と早起き。いいことだ。

『でもさ。スーパー緑谷くんに呼ばれてたよね?バッちゃん!って』
「かっちゃんだろうが!?あァ!?おまえ…耳までおかしいのか!なぁ!マジか!?マジで雄英のヒーロー科、受かったのか!?嘘だって言え!言わなきゃ殺すぞ!!」
『ああ。かっちゃんか、確かにそっちだね。じゃあかっちゃん!まだ誰も来ないし、親睦を深めるためにしりとりしよう』
「テメェ!人の話聞けねェのか!?あああ殺してェ!!デクレベルにムカつくなァおまえ!!」

爆豪くん、絶対カルシウム不足だよ。今度牛乳買ってやろう。
それイイネ。絶対仲良くなれるわ。
爆豪くんはわたしの前の席に座った。乱暴に。ドカッと。彼の席だからだ。

『じゃあ、かっちゃんの”か”から。か、か、…カス!』
「あァッ!?……スロバキア…」
『あ?”あ”…あ、あ、アメリカ』
「誰がやるッつった!?…カロライナ!」
『な…ナスビ』
「……ビーチ」
『ち…ち、チンスコウ』
「う…ウンコ」
『こ…コンビニエンスストア』
「…アコースティックギター」
『ええ。それって、”タ”なの?”ア”なの?』
「ギタァだから、”ア”だろ」
『あ…アイス!食べたいな。できればあの高いやつ。まあ安くてもいいや、アイスであればあるならなおさら』
「テメェ頭おかしすぎんだろ。…スイカ」
『か…カモナベ!くいてえ。かっちゃん、カモナベ食いに行こうぜ!!』
「バカかテメエはァ!?ああ!?頭おかしいだろうが!?」
『べ。”ベ”だよ、べ』
「はァー…チッ……ベストジーニスト」
『ヒーロー!ベストジーニスト。かっこいいよね、ベストジーニスト。シュア!あ。えーと、”ト”か。と…』
「………」
『トナカイ!クリスマスに活躍するツノ生えた馬、なーんだ』
「トナカイは馬じゃねェだろうが!?」

え?トナカイ、馬じゃ…ないんかーい!
とは言いつつも。なんだかんだ言いながらしりとりしてくれる爆豪くん、いい奴である。
カッケー。いい奴、オトモダチ!

体を横向きに椅子に座っている爆豪くんがふと、こっちに向けていた目をドアの方に向けた。ので、わたしもドアを見る。
そこには真顔で立ち竦む、髪の毛紅白ツートンのめでたい色味の男子。轟くんがいた。

『やあ轟くん。いい朝だね!グッドモーニング。今日もお元気?』
「…おはよう。元気だ」
『わたしもだよ!そうだイチゴショートくん。昨日はあんまり喋ってないから今日はよろしく。わたしは身剣柄叉。気安くクソボケとでも呼んでくれたまえ!』
「……本人が言うなら、仕方ないな…」
『ウンコでもいいよ!ビチクソでもいいし。まあ好きに呼んでくれたまえよ、イチゴショートくん』
「イチゴショート…まさか俺のことか。それ」
『その通り。轟くんの髪の毛は赤と白。つまり、イチゴと生クリーム!そして轟くんの下の名前。ファーストネーム、イズ、焦凍。ショートくん!これはすばらしいよ。素晴らしい。かかってる。これほどまでに…すげえ。カッケー!オトモダチになってください!』
「……俺でいいなら…好きにすればいい」

わお!いい人だ。これまたいい人。雄英半端ねえな。凄いや。
こんなにも躊躇いなく仲良くしてくれる人がいるなんて。
感激で泣けそうだ。

『これは…これはわたしの夢が叶うぞ!かっちゃんくん。すばらしきかな。いざ!友達100人、百人一首』
「テメェは、普通に人を呼べねェのか!?」
『それは。まことに申し訳ありませんでした!今後このようなことがないよう、精進してゆきたい所存であります。提督!』
「誰が提督だ!誰が!!俺は総督だ!!」

提督と総督って何が違うんだろう。どっちが偉いんだ。そういえば、謎。迷宮入りしそうだ。

ぞろぞろとクラスメイトが集いつつある。よきかなよきかな。騒がしいのは好きだよ。
ザワザワしていていいね。みんなが思い思い喋っている。
わたしも喋ろう。誰かと。
と思い、振り返ってみた。爆豪くんが前を向いてしまったからだ。
首をグリンと回転させて後ろを向くと、後ろの席の緑谷くんが悲鳴をあげた。

『やあ緑谷くん。ご機嫌いかが?』
「え、う、うん。バッチリ…」
『それはいいね。ところで朝ごはん何食べた?希望としてはやっぱりパンかな?朝はパン!パン。パパン。ヘイ!』
「ひいい…やっぱりヤバいよこの人…!」
『ああそうだ。指は治ったの?壊死してたよね、昨日。人差し指。緑谷選手、ソフトボール投げた!おっと。ここで謎の負傷。退場です』
「う、うん!?壊死、は、してないんだけども…その、ええと。治ったよ。リカバリーガールのとこ行ったから…」

それは、いいことだ。ソフトボール投げで右手人差し指をボロボロにした緑谷くんは、眉を下げて笑った。
それにしたって不思議だ。不思議な個性である。
超人的なパワーの見返りに体が壊れるのだろうか。それはヨクナイ。いつか死んでしまうよ。
だけど緑谷くんはそれを選んだ。すごい人だ。傷ついてまで人を救けようとは。感動する。思わず尊敬の眼差し。向けてしまいます。


「おはよう」

教室のドアが開いて、相澤先生が現れた。颯爽とは程遠い。
クラスメイトが元気よく「おはようございます」の挨拶をする。君たちは保育園の年長さんかい。わたしも仲間に入れてくれ。

『おはようございます!』

ひとつテンポ遅れて麗しき担任にご挨拶。
相澤先生は死んだ魚。のような目でわたしを捉える。
さっき職員室前でわたしのワガママに快く頷いてくれた。麗しき死んだ魚みたいな先生。快く、は語弊。

「日直は出席番号順に担当、今日は青山。業務は授業毎の黒板掃除と日誌記入など…恙なくやれ。身剣は、昼休み俺のとこに来い。以上」

教卓で相澤先生が言う。
それだけ言って身を翻した。ボサボサ髪の下で灰色の布が揺れるのを眺める。
捕縛武器だとか。あの布、なんか強いものを織り込んだ代物らしい。欲しい。

『ハイ、只今!』
「昼休みだっつってんだろ」
『かしこまりました。喜んでお伺いいたしますよ。菓子折りは、購買のお菓子でいいですか!』
「手ぶらで来い」
『御意です!』

相澤先生はこっちを見ることもなく答えながらドアを開けた。廊下に出て行く。
相変わらずクールだ。夏にはもってこい。ただ冬には遠慮したいところだ。冬には、心温かいお友達とおしくらまんじゅうをしよう。

「相澤先生の呼び出し…怖えな。身剣、おまえ何かしたん?」
『それは誤解だセロくん!いや瀬呂くん。相澤先生は怖くないのだよ。ただ死んだ魚のような目をしているだけで。ただ、ヒゲをたくわえているだけで。ただ恐ろしい言葉を使うだけで。相澤先生はとてもいい先生だよ。わたしが保証する!高らかに宣言します。相澤消太先生はいい先生。リピートアフターミー!いい先生!』
「い、いい先生…って何言わせんだ!椅子に立つな!降りろ降りろ」

椅子に乗ってしっかり立って右手をまっすぐ上に上げて宣言した。相澤先生はいい先生です。
瀬呂くんが不可解な身振り手振りで迫ってくる。
どうした。降りろとな。降りましょう。

「身剣くん!椅子は脚立ではないのだよ、降りたまえ!何故君は椅子に立っているんだ!?ハッ、そうか!さては蛍光灯を交換しようとしていたんだな!?いい心構えだ!僕は君のことを少々誤解していたのかもしれん…謝るよ。てっきり君は、ふざけてばかりいる不良だと思ってしまっていた。すまない。だけど身剣くん。椅子は踏み台じゃないんだ!蛍光灯なら僕が先生に報告しておくから、君は降りたまえ!」
『すいませんでしたぁぁぁ!!』
「飛び降りながら謝罪した!!」

椅子から飛び降りつつ頭を下げた。ら、後ろの緑谷くんが実況してくれた。
怒られてしまった。飯田くんというメガネさんに。こりゃ申し訳ない。
確かに椅子がかわいそうでした。

『飯田くん。そなたはすごい人だ!椅子の気持ちがわかるなんて。心がジーンとしました。きっとメガネだからだね。普段からメガネと心を通わせているから、椅子の気持ちもわかったんだ。スゲーや飯田くん。わたしも万物の気持ちを理解したい所存であります!ぜひオトモダチになりましょう!わたしは飯田くんの目が悪くたってかまわないよ。視力が低いからってそんなのノープロブレムさ。ぜひわたしと種族を超えたソウルメイトになっておくんなまし!』
「!!君は情熱的だな!いいとも!是非その、ソウルメイトというものになろう!」

飯田くんの手を握ってブンブン振ると、明るい笑顔が帰ってきた。
ここにもイイヒトが!お母さん見てますか!
わたしにもついに!ついにこんなにたくさんのお友達が。もう数え切れないよ。感激!喜びの舞を披露したい!

『わたしの名前は身剣柄叉!好物はチョコレートで貯金残高はゼロだよ。スリーサイズは上からイチ・ニ・サン!靴のサイズは23.5センチでお風呂は全身浴派よ!バイクの免許を取る気はないけど、いつかルパンのフジコちゃんみたいに大きなバイクでパラリラパラリラするのが夢なの。趣味は道行く人に探偵ごっこを仕掛けることかな!今度一緒にどう?特技は草むしりよ。よろしくねボウヤ!』
「マトモなの好物と靴のサイズだけ!!」

緑谷くんが首をガクガクさせながら叫んだ。ビックリした。
緑谷くんは、いきなり叫ぶ持病か何かをお持ちなのだろうか…今度通院費用を肩代わりしてあげよう!
きっと距離が一気に縮まるぞ。金の切れ目は縁の切れ目と申しますし。

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