05

「ちなみに除籍はウソな」

歓喜!歓喜だ!歓喜の雨が降る。

個性把握テストを終え、相澤先生がトータル成績を一括開示した。
わたしは16位。わあ!最下位どころか下から5番目!最高。
二回投げるソフトボール投げの二回目で、刀をバッド代わりにボールを打ったのが功を奏したのだろうか。そんなに飛ばなかったけど。
しかも除籍はウソだという。
ちなみに最下位はソフトボール投げでビックリな記録を出したのに緑谷くんだった。
まあ彼は持久走で何故かひどい結果を残していたので仕方ない。
20位は峰田という人。どの人かは知らない。

「君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」

らしい。相澤先生は見てるこっちが不安になる笑顔を浮かべて言った。
怖い笑顔だ。点にしたらマイナス5点。切島くんのが100点。

『相澤先生はいい先生だった!』
「身剣。おまえは人格に問題があるようだから、特別に除籍してやってもいい」
『ご心配は無用です、先生!わたしはこれでも、友達がたくさんいます。述べましょうか、順番で。スーパー緑谷くんに、セロくんに、爆豪くんに、お茶子ちゃんに、響香ちゃんに、エイちゃんに、ももちゃ』
「黙れ。次いらんことほざいたら除籍する、いいな?」

相澤先生のボサボサ黒髪が、重力に逆らってザワ…となびく。目がギロリと光る。
これは!これは相澤先生の怒りのしるし。
閉口する。
相澤先生は髪を下ろしてぼんやりした目に戻った。
やっぱ怖い先生かもしれない。

相澤先生は、緑谷くんに保健室に行けと一枚の紙切れを渡して校舎に帰っていった。
教室の書類に目を通しとけ、とだけ言い残して。
クールだ…クールガイ、相澤先生。

「テメェ何しれっと俺まで入れてんだ!?取り消せ!俺はおまえみたいなイカレ女と友達になった覚えは無え!!」
『爆豪くん。わたしの名前忘れちゃったかな?では名乗ろう。我輩は身剣柄叉である…名前はまだ無い』
「思っきし名乗ってんじゃねェか!!」

手を爆発させる個性を発動する爆豪くんが、ボンボン音を立てながら走ってくる。
が、殴られることはなかった。
なんだ、優しいじゃないか!感心感心。

「僕、なんでスーパーってつけられてるの…」
「セロって、身剣。俺の呼び方、イントネーションおかしいぜ」
「エイちゃんて誰?」
『響香ちゃん、それはね。エイちゃんっていうのは、切島鋭児郎くんのことだよ。いい笑顔、百点満点の笑顔がトレードマークの彼!わたしの心の友』
「よくわかんねえけど、褒めてくれてサンキューな!」

高校って、スゴイ。
こんなに簡単に友達ができるなんて。中学では友達ゼロだったのに…この一ヶ月足らずでわたしに、何があったというのだ。
今のわたしはまるでオトモダチ製造マシン。すんばらしい。
雄英最高。たのしい。一生ここにいる。


(相澤視点)

おかしい。あいつ、身剣柄叉。頭のネジ、どこに落としてきた。一本や二本どころじゃない。
下手したら、残ってるネジが一本か二本かもしれない。

「身剣?…ああ!あの女子リスナーか!あいつやべェよなァ、今朝下駄箱んトコで会ったんだけどよ。なんかやべェこと口走ってたから無視したわ。いくら雄英といえど、あそこまで狂った生徒も珍しいよな」

隣のデスクでマイクが言う。
俺の手にある、身剣柄叉のデータベース資料を見ながら。
そうだ。あいつは誰が見てもおかしい。
入学試験の時の映像では判断し得なかった異常が、ここ数時間で一気に露見した。

「…あいつ頭おかしいよな」
「おかしいぜ!百人に聞いても百人が頷くぜ。満場一致!あいつはやべェ」

だよな。おかしいよな。
入学前の、身辺調査の結果をまとめた書類に目を落とす。
身剣の異常さを裏付ける要因を探す。
身剣柄叉。女。
生年月日、異常なし。
出身地・出身小学・出身中学、異常なし。
親は…身剣が小学生の頃に父母揃って事故で他界。異常ではないが、要因ではあるかもしれん。
それから母方の祖父母に引き取られる。祖父母がこっちに引っ越してくる形。引っ越しはナシ。
身剣が中二の時、祖母が他界。半年後に祖父が他界。これも要因である可能性がある。
それからは両親、祖父母と暮らした一軒家で一人暮らし。
次。対人関係。
中学卒業まで親しくしていた人間はゼロ。
小学生の頃いじめを受けていたとの報告。当時の同級生からの証言。
主に言葉を武器にしたいじめ。身体的な暴力はナシ。これも要因の可能性あり。
だが身剣はいじめっ子を全く相手にしてなかったとの証言。
中学校でもいじめに遭う。
こっちも言葉、精神的暴力が主。
主犯の元女子生徒の証言。身剣は三年間シカトを貫いていたらしい。というかいじめに気付いていなかったのでは、との証言も。
あり得る。どう見てもアホだ、悪意を向けられても気付かなそうだ。
次、男女関係。ナシ。

「……全くわからん…」
「何だ?」
「何がどうなったら、ああなる」
「さァなぁ…元々ああだったんじゃねえの?暗いわけでも攻撃的なわけでもねぇしなぁ」

所謂、闇というものがある。人には。
例えば轟。
轟は過去の両親との確執により、闇を抱えている。
爆豪も、過去の何かしらで闇…というか自尊心を膨れ上がらせている。
なら身剣は。
あいつのは、闇か?
底抜けに明るいバカなだけか?
一見闇ではない。思い悩んでいる様子はない。トラウマを抱えている様子もない。
ただおかしい。破綻している、その原因は何だ。

「言っちゃ悪いが、親の育て方が悪かったとか?」
「あいつの両親、8年前に亡くなってる。その時点で、あの人格がすでに出来上がってたのか」
「そりゃマズい。筋金入りってヤツだな。そんなガキ、いてたまるか」
「その後は、中二まで祖父母に育てられてる」
「親と祖父母は、マトモなんか?」

データベースの二枚目に目を落とす。
身剣の家族の情報が綴られている。
母親、保育園勤務。交通事故により34歳で死去。
父親、会社員。同じく34歳死去。
祖母、元警察官。67歳、病死。
祖父、元警察官。69歳、病死。
おかしくないな。マトモだ。
むしろ身剣の親、祖父母にしてはマトモすぎる。
祖父母は警察官か。警察の知り合いに聞けば何か知っているだろうか。
そんな面倒なことはしないが。問題が起きない限り。もしくは、その兆しがなければ。

「やっぱ、元々の人格なのかね。まあ愉快なだけなら、放っときゃいんでねぇか?ツラは可愛いし、ニコニコしてて愛想も良い。危ねぇ言動は目立つみてえだけどよ」
「ツラはどうでもいい。今年の適正検査はどうなってんだ」
「普通に受かってんならまぁ、おかしいのは身内にだけかもしんねえぞ。案外、外面は普通かも」

初対面のクラスメイトと担任に、あれだけブチかましといて。外面は普通、なはずがない。
むしろアレが外面だろ。
マイクの言うとおり、容姿はマトモ。良いと言える。が、常にニコニコ薄い笑みを貼り付けた顔。どう見ても作り笑い、目は笑ってない。
抑揚のない声で、ぎょっとするような発言をする。マトモな会話は望めない。
あれがどうやって、ヒーローになる。
ヒーローになれるか?あれが。適正は無い。見込みもない。
あの姿だけが、あいつの全てだとしたら。ヒーローにはなれない。断じて。

「今朝、俺。なんて言われたと思う。身剣に」
「知るか」
「そなたは。かの有名なプレゼント・マイクであらせられる!入試の実技試験のプレゼン、カッチョよかったです、痺れました!特にあの、ナポレオンのくだり。スタンディングオベーションですよ。まさに。拍手喝采!リスペクトです!あ、名乗り遅れました。失敬。わたくし、名を身剣柄叉と申す者にございまする。本日より、雄英高校の生徒とあいなりました!よろしくお願いします、隊長!…だってよ。俺いつ隊長になったんだっけ?と思ったけどシカトしといた。久しぶりに恐怖を感じた。正直なハナシ」

よく、覚えてんな。
今朝の事とは言え、一字一句合致してそうな語り方だった。
まさに身剣が言いそうだ。
マグロの解体ショー。さっきあいつにせびられた種目。
馬鹿とかアホとかでは間に合わない。あいつは何か足りない。大きく欠いている。

「俺は。靴を舐めましょうか、と言われた」
「オイオイ。生徒に、それはダメだろ」
「ふざけんなよ」
「カワイイ冗談じゃねーか、怒んなよ。アレは、言いそうだな。平気な顔で。そんで、体力テストは。身体的には、見込みありそうか?」
「どれも、女子平均をそれなりに上回る成績だった。個性の使用はナシ」
「あの個性じゃ、まぁ仕方ねえよな」
「それでも、16位だ。体は出来てる」
「ああ、確かに。実技試験、あいつ凄かったしな。思わずYEAHーて言っちゃったしな」

実技試験。ポイントを振り分けたロボを受験者は思い思い、個性を使って行動不能にするという内容。
身剣は爛々としていた。危ういほどに。
モニター越しに俺も見ていたが、マイクはマジでYEAHと叫んでいた。
身剣の個性は、手のひらから刀を出すというもの。それだけで、身体能力は個性によって左右されない。
多分あいつは、相当トレーニングを積んでいる。どう鍛えればどう動けるか知っている。
身剣は確かに、入試の実技試験、凄いと言える結果を残した。過程も含め。
俊敏なロボ、頑丈なロボ、数種の仮想敵をあの銀色の細い刃物で次々になぎ倒した。
戦うときばかりは真顔らしい。モニター越しに見ていても怯むほどの目をしていた。
実戦経験のないガキに、出来るはずのない動きでロボを仕留めたあいつは。
言葉を選ばずに言えば。人でも殺していそうな目だった。瞳と言おうか。
殺し慣れている瞳。何かを殺してきた動き。躊躇なく急所を狙った身剣は、刀と言えばアレだった。まさに武士とかサムライとか、そういうのを彷彿とさせた。

「ーー危ういな。ひどく、危うい」

実技試験を見ていたオールマイトが呟いていたのを覚えている。
恐らくあれは身剣を見ていた。モニターにデカデカと映っていたからだ。ロボを一撃で仕留めるあいつが。

「怖いな。あの少女の目。まるで味方がいないみたいだ」

らしい。あいつに対するオールマイトの印象は。
四面楚歌。確かに。
左右前後、上下。斜めまでも敵に囲まれているような目をしていたな。

「ま、たまにはよ。長い目で見てやれば?新鮮でいいだろ。そういうのも、教育の醍醐味ってヤツだ」

マイクが言う。他人事だと思っておかしそうに。
あいつに戦う場を与えていいものか。そういえばオトモダチとやらに拘ってたな。
やはりトラウマか。しかしそうは見えん。まだ初日だからどうとも言えないが。

「まあいい。判断に迫られれば、その時でも」

切り捨てる準備はしておこう。
いつでも、判断を下せるように。サッパリと。

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