下着やら、必要な物と適当な食材を買って、みょうじを連れて家に帰った。
慣れないからかそわそわしながら、お邪魔しますと呟いて俺の後をついて来る。
ソファに座らせコーヒーを淹れた。
隣に腰掛け、居心地悪そうにしている彼女のためにとりあえずテレビの電源を入れる。
さて、これからどうするか。
DV男から一時的に保護したのはいいが、こいつもずっとここにいる気はないだろう。
しかしあの男のいる家に帰すことはできない。
彼女のついた、自分を守るための嘘がばれたうえに、しばらく別の男の家にいたなんて知ったら。
きっとあの男はこれまで以上の暴行を彼女に加えるだろう。
最悪の結果が待っているかもしれない。
コーヒーをふーふーと冷ましながら飲んでいるみょうじの横顔を見た。


「なあ」

『はい』

「…別れる気はないんか」

『……………』

「このままやとマズイって、わかっとるじゃろ」

『…でも……』

「怖い?」

『………はい…』


そりゃ、怖くて当たり前だと思う。
別れ話なんかできないだろう。
でもこのままの状況ってのもマズイ訳で、俺の頭に浮かぶ解決策は一つ。


「警察行くか?」

『…………』

「とりあえず病院連れて行っちゃるから」

『警察…』

「嫌か?」

『…………』

「…やけど、警察にでも頼らんと……危険じゃろうが」

『だけど、あの人だけが悪いわけじゃ……』

「……………」

『………わたしが、だめだから…』


なんとなく、イメージはあった。
DVを受けている女が自分を責め、その異常さを麻痺させている、そのイメージは。
しかしみょうじはDVを受けている自覚はあるから、まだマシなのかもしれない。
彼女の腕を掴み、肌を隠している薄手の長袖を捲り上げた。


『えっ、や、ちょっ』

「…お前がいくらだめやっちゅーても、これはないじゃろ?」

『……………』


露わになった細い腕に並ぶ、幾つもの痛々しい痣や火傷の痕。
本来ならば綺麗なはずのその肌には、切り傷まであった。


「いったそうじゃのう…」

『…見ないでください』

「異常じゃって、わかっとるんじゃろ?」

『…………』

「あいつとおったら、お前さんは不幸になる」


それに、あの男も。
そう言えば、彼女は涙を浮かべて頷いた。
めくった袖を戻し、風呂に湯を張りに立つ。
先にみょうじを風呂に入れて、明日は店が定休日だから、病院に連れて行こう。

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