「悠斗、メシ行くか?」

「おう」


同僚に声を掛けられ立ち上がる。
スマホを確認したが、なまえからの連絡がなかった。
仕事中で、休憩に入れば連絡は来るだろうとはわかっているが内心イラつきタバコを咥える。


「珍しいな、お前が外でメシ食うの」

「そうか?」

「いっつも弁当だろ。彼女が作ってくれてんだっけ」

「あぁ、今日あいつ寝坊しやがってよ」

「寝坊ってお前、昨日寝かせてやんなかったんじゃねえのか?」

「あ?」

「いいねえ、お熱いねえ」


下世話な話題でニヤつく同僚を無視してスマホを開く。
朝、寝坊して弁当を作れなかったとすまなそうに言ったあいつの頬を殴った。
いけないとわかっていても、つい手が出てしまうのは俺の悪い癖だ。
それもわかっていても、腹が立つ。
俺に怯えるあいつの表情が。
俺自身が付けた、あいつの身体中の痣や根性焼きの跡にも。
一度入院するほど痛めつけた時の、手術の傷跡にすら、苛立ってしまう。
自分のしていることがどういうことなのか、わかっていない訳ではない。
ただ、好きなのだ。
なまえを好きで、それ故に支配して、俺だけの物にしたい。
誰の目にも触れさせず、閉じ込めて俺だけをあの茶色い目に移して欲しい。
そんなキチガイみたいな自分自身が許せない。
受け入れられなくて、当然実行に移せる訳もなく。
ただ、埋められない欲望や苛立ちを、愛しいはずのあいつに向けてしまう。
いっそあいつを殺して自分も死のうと思ったこともある。
自分の頭がおかしいことを自覚するたび、俺は歯を食いしばる。


「つーか、おい、どこ行くんだよ」

「あぁ、知り合いの友達がやってる店がこの先にあるからよ、顔出しとかねーと」

「店?」

「カフェとか言ってたっけか」

「男二人でカフェってお前」


そういやあいつもカフェで働いてるっつってたのを思い出した。

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