『ねえ、潔子』
「なに、なまえ」
『わたし、ツッキーに何かしたかな』
「わたしが見てた限りでは、何もしてなかったと思う」
じゃあ、あの態度はなんなの。
『ツッキー、ねえ』
「近寄らないでもらえますか。馬鹿が移ります」
『移らないよ馬鹿は…』
『あ、ツッキー』
「……………………」
『(シカトかよ)…』
『ツッキー、ドリンクいらないの?』
「誰が馬鹿の作ったものなんか」
『…………』
わたしいつツッキーに嫌われたんだろう。
ちょっと、わからないです。
今まで、他の部員よりは捻くれ系男子ツッキーと仲良くしていたつもりだったのに、昨日からツッキーが冷たい。
冷たすぎる。
他の部員にも言わないような辛辣な言葉を吐き散らされている。
何故。
わたしが何をしたっていうのツッキー。
『ぐっちー、ねえ、ツッキーは一体何に怒ってるの?わたし何をしたの?』
「い、いや、あはは…みょうじさんが悪いとかじゃなくて……その、ツッキーは…なんというか…思春期と戦闘中というか……」
『……え、何。ツッキーわたしに反抗期なの?年頃の弟は姉と話すの恥ずかしいみたいな』
「いや、それとはまた違うんですけど…」
ぐっちーも頼りにならないときた。
どうしたものか。
冷たくされるのは辛い。非常に辛い。
なぜって、ツッキーのことが好きだからだ。
どこがって、知らないよ。
いつの間にか恋い焦がれてたんだよ、二つ年下の身長差40センチ弱のツッキーに。
だというのに、何故こんなことに。
とか途方に暮れてたら、なんかツッキーと二人きりになってしまった。
帰り道、無言で歩く。
『…ツッキー』
「……………」
『……何かしたなら謝るよ。ごめんね』
「…心当たりでもあるんですか」
『ううん、ないけど』
「ならなんで謝るんですか。馬鹿なんですか」
『…うん、わたし、馬鹿なんだね』
声が震えて、泣いてることに気付いた。
わたし何泣いてんの?意味がわからない。
ツッキーが振り返る。
久しぶりに目を合わせてくれた。
こんなときなのに、震えるほど嬉しい。
「!…何泣いてんですか」
『だって…ツッキーが、ひどいことばっかり言うんだもん』
「………………」
『でも、もう許した。こっち見てくれたから』
「…っそういうところが、……」
『え?』
ツッキーは何かを言いかけてやめると、ずんずん長い足を動かして近づいてくる。
そして、腕を引っ張られて、屈んだツッキーの顔が近付いてきて、唇がぶつかった。
「馬鹿も、大概にしてください」
『な、なんで』
「こっちのセリフですよ。なんで気付かないんですか?」
泣いてるのはわたしなのに、ツッキーが悲しそうな顔をするから、泣けなくなってしまった。
なんでツッキー、そんなに傷付いてるの。
思わずツッキーに抱きつく。
背中に手を回した。
『何言ってるのかぜんぜん、わかんないよ』
「だから、馬鹿だって言ってんですよ」
『馬鹿で、ごめんね。でも、わたし、ツッキーのこと、好きだよ』
「………ば…」
『………ば?』
「………」
ツッキーが何も言わないので、顔を上げた。
そうしたら、ツッキーの顔が真っ赤になっていたので、わたしまで顔が熱くなってしまう。
「勝手に人の顔見るのやめてください」
『あ、ご、ごめんなさい』
「すぐ謝るのもやめてください」
『えっ…わ、わかった』
「…仕方ないんで、付き合ってあげます」
『……え…う、あ、はい』
「仕方なくですよ。あんたが泣いて頼むから」
泣いたけど、頼んだ覚えはない。
なんて、ツッキーの真っ赤な顔を見たら言えなくなる。
なんなんだ、つまり、ツッキーはわたしのことが好き、ということなのか。
だから冷たかったのか。
「いつまでくっついてる気ですか。離れてください鬱陶しい」
『…ツッキー、かわいい』
「は?」
『…好き』
「…な、殴りますよ」
絶対に殴られないとわかっているので、背伸びをして、もっと強く抱き着いた。
後ろから来た山口に祝福されるのは、しばらく後の話。