「どうしたの」じゃなくて「なにしてんの」になってしまった。
もう優しい言葉じゃ間に合わない。
悲鳴と野次馬の声で騒がしい教室の中で椅子や机を巻き込んで床に倒れ込んだ山田くんを見下ろして思った。
いきなりほっぺを殴られた何の罪もない彼は、唖然とあたしの隣に立っている仁王を見上げている。
どうしたどうした喧嘩?なんて声があちこちで聞こえてきて居心地の悪さに仁王を見ると、奴は山田くんを殴った拳を降るわせて暴行してもなお許せないと言ったものすごい怖い顔で被害者・山田くんを睨み付けている。

「仁王お前、何してんだよぃ!?」

丸井のそんな声ではっとして振り向くと、さっきまで各々の席に座ってお弁当やらパンやらを食べて昼休みを謳歌していたクラスメイトと、騒ぎに駆けつけてきた野次馬がこの修羅場を囲むようにしてあたしたち3人を見ていた。
そりゃそうだろう、だってアイドル的存在な男子テニス部レギュラー陣の中の一人である仁王がいきなり平凡なクラスメイトの山田くんを殴ったのだから。
しかもその拳は思い切り振りかぶられていたようで、山田くんは面白いくらいに吹き飛んだうえに口内が切れたのか口から血が出ている。
そんな頭おかしいと思われても不思議じゃない加害者・仁王は、怒りに振るわせていた身体をくるりとこっちに向けて唐突にあたしに抱きついてきた。
大きな身体に容赦無く抱き締められてあたしの身体の節々と、野次馬の女子から悲鳴が上がる。

「仁王、なんで山田くん殴ったの」

「こいつがなまえに馴れ馴れしく触るからじゃ」

人目をはばからないというか、気にしないというか、周りが見えていないというか、自分さえよければいいという仁王はそう言ってあたしを抱き締めたまままた山田くんを睨んだ。
山田くんはというと、まだ状況が理解できていないんだろう。床に倒れこんだまま口をあんぐり開けてあたしたちを見上げている。
ちなみに仁王は山田くんがあたしに馴れ馴れしく触ったとか言ってたが、ちょっと二の腕を揉まれただけだ。
「お前太ったんじゃね?」「え、うそ、まじ?」「なんか二の腕ぷにぷにになってんじゃん」「前からじゃね?」みたいな会話をしていたら仁王が山田くんを殴り飛ばしたのだ。

「仁王の方が馴れ馴れしいけど」

「俺はええけど他の男がお前さんに触るんは許さんぜよ」

「重っ。なんで彼氏みたいなこと言ってんの。しかもここ教室だしみんな見てるしやばいよ」

「やばくない。好きじゃもん」

ほっぺにほっぺをすりすりしてきた仁王が少し可愛く見えたけどこんな重くてキチガイな彼氏はぶっちゃけいらない。どうすべきなのか。
とりあえずこいつの機嫌を取ろうと仁王の身体を抱きしめ返してからちらりと野次馬の方を見ると、全員が唖然とあたしたちを見ていた。
丸井なんか唖然と言うよりは引いてるし、収集つかないぞこれは。
どうしたもんかと仁王の背中をぽんぽんしながら考えているとお腹におかしな感覚がするのに気がついた。
なんか硬いのが当たっている。
うわこいつ勃ってやがる。キチガイだ。
今すぐ突き放したい。この不快感ね。だが下手に機嫌を損ねて山田くんの二の舞になるのも嫌だし。しかしこのまま身を委ねてたら確実にヤられる。
あああああどうしようきもちわるい。
なんでなの。あたし仁王と話したの今日が初めてなのに。こいつ頭どうなってんだよ。施設とかに郵送した方がいいんじゃないだろうか。
仁王を見上げて見ると何故かとても幸せそうな顔で笑いかけられたので何も言えなかった。
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -