三年間なんて、過ぎてしまえば短いものなのかもしれない。
だけど、あたしの過ごした三年という年月は確かに長く、切ないものだった。
「卒業しても、絶対会おうね」
涙声でそう言っていた友達の顔を思い出しながら階段を登る。
卒業生も在校生もみんなグランドに出てそれぞれ別れを惜しんでいるせいで泣きたいくらい静かな校内で、あたしの耳には自分の足音しか届かない。
重い扉を押した先には、嫌味みたいに青ざめた空が広がっている。
1番空に近い場所まで行って人の集まるグランドを見渡した。
いつものクセでキラキラ輝く銀色を探してしまう自分に気付いて、胸に刺さっている卒業生の証である花をちぎって空へと巻いた。
ひらひらと舞いながらゆっくりと落ちていく花びらを眺めていると、背後に誰かの気配を感じた。
「あーあ、もったいないのう」
正直声だけでわかったけれど、そのせいで驚いたので振り返るとあたしが無意識に探してしまった銀髪の彼が立っていた。
「仁王くん…?」
「仁王くんじゃ」
あたしの三年間が、今あたしの目の前にいる。
あたしがいっそ学校に爆破予告でもして卒業式をぶっ壊そうなんて考えてしまった理由が、今。
あたしをじっと見下ろしている。
「みょうじは意気地なしじゃな」
「…え?」
仁王くんがそう言った意味がよく分からないまま、頬を涙が滑り落ちた。
彼なのだ。
正に今目の前でじっと見ている仁王くんが、あたしの高校生活の全てであり、卒業を拒む理由なのだ。
だって、卒業なんてしてしまったら。
「…泣かれたら困るナリ」
「に、おく…」
彼と無条件に同じ空間にいられる理由がなくなるじゃないか。
泣き顔を見られるのが嫌で俯いたとき、身体がふわりと温もりに包まれた。
物理的に誰かの体温を感じて、仁王くんに抱きしめられていることに気付く。
「ずっと俺のこと見とったじゃろ」
「……知ってたの?」
「知っとったよ」
「………」
「だって俺も、ずっとみょうじのこと見とったから」
強く抱きしめられてるから顔を上げることはできなかったけど、仁王くんの心臓の音があたしと同じくらい早く刻まれてるのが聞こえた。