(直接的ではないですが、それっぽい描写が多々あります。)





『はっ』

はっと気がついた。
それを、声に出していた。
寝ていたことに気づく、それから、今自分が目覚めたことにも。
そして次に。
自分が、裸の男に腕枕されていることに、気がついた。

『……え』

裸の胸板から、視線を上げたら。
信じられないものを見てしまった。

『ばく……』

ごう。
すっとつま先が冷える。
わたしも裸だった。しかも、全裸だった。

目覚めたら、高校時代のクラスメイトにお互い全裸で腕枕されていた。
意味がわからない。
スヤスヤと眠っている爆豪の顔を凝視して、動けなくなる。
寝ている。熟睡していらっしゃる。

遅れて、知らないベッドに寝ていることにも気づく。
大きいベッドだ。多分、 爆豪の。
冷や汗が出てくる。意味がわからない。
わたしは、多分。
雄英高校に在学中、3回しか会話をしなかった爆豪と、寝てしまったみたいだ。




ほとんど他人だった。爆豪とは。
三年間同じクラスだったけど、会話は本当に3回しかした覚えがない。
そんな男と、同じベッドで裸で眠っていた。
しかも、腕枕されて。爆豪はわたしを、抱き枕みたいにして、眠っている。
抱き締められているといってもいい。
気が遠くなる。まだ、意味がわからない。
何故、よりにもよってこの男に。
知っている人間の中で最も凶悪で暴君な顔見知りに。
何故わたしは爆豪に、体を委ねてしまったんだ。
昨夜の記憶が、全くなかった。微塵もない。欠片も。
お酒を飲んだことは覚えている。人生で初めてのお酒だった。
昨日は、わたしの20歳の誕生日だったからだ。
初めてアルコールを摂取して、記憶を失い、気付いたら顔見知りの腕の中。
笑ってしまう。
乾いた笑いが出る。
もはや、現実とは思えない。
どうしよう。爆豪が起きたら、殺されるかもしれない。
昨日何があったのか、覚えていない。何か不祥事を起こした恐れがある。
もしかしたら、「ムラムラするから抱いてくれ!」とか、頼んでしまったのかもしれない。わたしが、爆豪に。
そんなこと、あって欲しくない。
そんな女ではないはずだ、わたしの知っている限りでは、わたしは。
知らないわたしが目覚めたのかもしれない。ハハ、くだらねえ。

「オイ…起きたなら、起こせよ」

ピシリ。体が硬直する。
頭の上から低い声が降ってきた。
爆豪が、目覚めてしまった。
何故だ。わたしは、じっとしていた。息を潜めていたというのに、爆豪。
爆豪の掠れた声を、理解するのには時間がかかる。
オイ起きたなら起こせよ。それはつまり、目が覚めたなら、俺も起こせや使えねえな。という解釈でいいだろうか。

「眠ィ」
『!!』

ヒッ!と、悲鳴を上げそうになった。
爆豪に、ぎゅうと抱き寄せられたからだ。
突然。爆豪は右腕にわたしの頭を乗せ、左腕はわたしの背中に回していた。
それを、巻き込むようにして、わたしの体を抱き寄せた。ぴったりと、全裸の体同士が密着する。
当たっている。朝だからか硬いものが、下腹部に、バッチリ当たっている。
どうすればいいのか、全くわからない。
わたしはされるがままに、爆豪に抱き締められている。

「おまえ今日、休みだろ。もうちょい寝ろ」

なんで。
疑問が二つある。いや、本当は二つどころではないが。
爆豪の発言に対して。まず、なんでわたしの今日のスケジュールを知っている。何故、休みだと知っている。
そして何故、わたしは寝ないといけないんだ。もう眠くない。
が、しかし、逆らえない。逆らったら、問答無用で爆破されると知っているからだ。
恐ろしいことこの上なし。
爆豪は、ねぼけているのかもしれない。
顔を、わたしの頭に擦り寄せてくる。

「…オイ。テメエ、何シカトこいてんだ」

ヤバイ。返答を求められた。
覚えてないと、正直に言いたい。
覚えてないから戸惑っている、説明して欲しいと、言いたい。
だけど、覚えてないなんて言ったら。
ふざけんな殺すぞテメエ死ね、と激昂する爆豪に、殺されるに決まっている。
わたしは、恐る恐る顔を上げてみた。
爆豪を見上げると、鋭すぎる視線が、わたしの目に下りてくる。

「んだよ」
『い、いえ。その』
「あ?」
『………』
「つーか。おまえ寝起き、死ぬほどブスだな」
『!!』

殺すぞ!!と、思った。爆豪みたいな思考になってしまった。
ブスなことは、知っている。でも死ぬほどではないはずだ。ギリギリ半殺しぐらいのブスだ。
バカにしたような笑みを浮かべる爆豪に殺意を覚えたけど、何もできかった。
爆豪には勝てない。
これが、その辺の普通の男とかなら、顔面ぶん殴って蹴り飛ばして暴言を吐いてもいいのだけど、爆豪には出来ない。
返り討ちにされ、10倍返しにされ、殺されるに決まっているからだ。
こいつは、恐ろしい男だ。

「何目ェ開けてんだ。寝ろっつってんだろ。寝ろよ」
『はい』

悔しいが、従うしかない。
顔を俯かせると、爆豪の胸板が頬にぺたりと張り付いた。
密着しすぎだろう。この男は何をしているんだ、意味がわからない。
これは、どういう状況なんだ。
爆豪がまた、わたしの頭に顔を擦り寄せてくる。髪の毛に鼻を埋められた。
噛みちぎられたらどうしよう。
そもそも、わたしは。
本当にどうして、爆豪とこんなことに。
まず昨日は、爆豪に会った記憶がない。そんな予定もなかった。
わたしは響香や透と一緒にバーに行ったのだ。高校からの友達で、予定の合った彼女らは誕生日をお祝いしてくれた。
そこで、水色のカクテルを飲んだ。
チャイナブルーというやつだ。
それを、美味しいと思って一杯飲み干した。そこまでしか覚えていない。
そのあとわたしは何をした。
何がどうなって、爆豪と一夜を共にすることになったというんだ。
全くわからない。皆目見当もつかない。
が、どうにかやり過ごさなければならない。
殺されないように、ヘタを踏まないように。
そして殺されることなく家に帰って、響香や透に、昨日何があったのか尋ねよう。
それで、謎は解けるだろう。
それまで、やり過ごすことは、果たして。
わたしに、できるのだろうか。
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