席替えで隣になった相澤くんは、いつもぼーっとしている。
授業中は真面目に聞いているみたいだけど、わたしにはぼんやりしているようにしか見えなかった。多分あの生気の無い目のせいだろう。

「みょうじ」
『ん?』
「プリント。貸せ」
『あ、うん』

必修科目の英語の授業、配られたプリントを解いて、隣の人と交換して丸付けをすることになっていた。
相澤くんをぼんやりしている、とか言いながらぼんやりしていたわたしは、左隣から声をかけられて慌ててプリントを手渡す。
交換するように渡された彼のプリントを見下ろして、捉えどころのないアルファベットを目で追った。

「…おい、お前が手に持ってるの何だ」
『え?赤ペンだけど…』
「赤じゃねぇだろ。ピンクだろソレ」
『…あ、ごめん。危ない、ピンクで丸付けするとこだった』
「何ボーッとしてんだよ」
『ごめんごめん、考え事してて』
「何考えてたらそんなことになんだ」
『いや、相澤くんのこと考えてた』

いろいろミスって笑いながら正直に言うと、相澤くんはドライアイだという目をぎょっと見開いて、何言ってんだこいつ、みたいな感じに眉間に皺を寄せた。
会話が聞こえてたのか、わたしの前の席に座っているマイク(ヒーロー名で呼べって言われた)も、目を点にしてわたしを振り返って見つめている。
え、なに?なんか変なこと言った?と慌てながら、マイクから顔を逸らして相澤くんに目を移すと、彼の頬は微かに赤く染まっている。
それを見てようやく、わたしは自分の失言がどんな勘違いを生んでいるのか、遅すぎる理解をした。

『ああ、違う違う。そういう意味じゃなくて、相澤くん眠そうだなーと思ってただけ!』
「……眠いのはお前だろ」
「ヒューウ……」
『ヒューじゃないよ、前向けマイク』
「後ろでラブが生まれた瞬間…ゲット」
『生まれてないわ!』

前を向きながらいらんことを呟くマイクの背中をシャーペンで刺したら、悲鳴をあげて先生に怒られていた。
否定したけど大丈夫だったかな、と思い相澤くんを見ると、彼は困ったようなばつが悪そうな顔で、眉間に皺を刻んだまま頭を掻いている。

「紛らわしいこと言うんじゃねぇよ」
『ごめんね』
「………」
『…相澤くん、照れたりするんだね』
「…俺を何だと思ってんだよお前……」
『だって相澤くん、あんまり表情変えないから』
「………」
『かっこいいんだから、もっと笑ったりしたらいいのに』
「……さっきから何?口説いてんのか?」
『え?』

頬が赤いままの相澤くんと目が合う。
わたし、口説いてたのか?そんな馬鹿な。確かに相澤くんのことは好きだけど、好きと言っても恋愛感情の好きという意味で……って何言ってんだわたし、相澤くんのこと恋愛感情の意味で好きだったのか?
なに考えてんだろうわたし、なんかの病気か?

『そうだよ…って言ったらどうする?』
「…それなりの対処をする」
『じゃあ、そうだよ』
「……付き合うか?」
『…………えっ…え?いいの?』
「いいから言ってんだろ」
『…え…付き合うの?』
「付き合うよ」
『……す…末長く、よろしく』
「あぁ。末長くな」

「あのさ君ら、いま授業中だって知ってるかな?」

先生に怒られたその日、高校一年生の6月の月曜日の二時間目。
わたしと相澤くんの記念日で、その8年後、わたしと消くんの結婚記念日になった。

『消くん、お弁当忘れてるよ』
「あぁ、悪い。行ってくる」
『いってらっしゃい』

行ってきますのキスをして、母校に教師として働き始めた消くんの背中を見送る。
わたしもプロヒーローになったけど、今は休業中だ。いや、育休中と言った方が正しいかな。
今日は消くんが早く帰ってきてくれる。なぜなら今日は、わたしたちの9回目の記念日で、2回目の結婚記念日だから。
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