小説 | ナノ



アロマなあの子
3/15



※46話ネタバレあり


リボルバーとの決着は尽き、ハノイの塔の完成を阻止することが出来た。そして同時に、ハノイは滅んだ事でアイの役割は終わり、故郷に帰った。

「もしもーし、アイちゃーん?」

暗くなった帰り道、なまえにその事を伝えると、今までアイがいた俺のデュエルディスクを抱えて声をかける。

「…アイちゃん本当に故郷に帰っちゃったのね」

話しかけたり、優しくコンコンと叩いてアイが中にいない事を受け入れると、ディスクを俺に返す。

「なんか。寂しくなるわね」
「そうだな」

帰る時はいつも、アイとなまえが話していて騒がしかったが、アイが帰った今は俺となまえの足音だけが響く。

「遊作はこれからどうするの?」
「さあ」

なまえに言われるまで、復讐を終えた後、どうするかなんて考えもしなかった。歩きながら考えると、なまえの足音が消えたのに気づいて振り返る。なまえは立ち止まって下を向いていた。

「なまえ?」
「私ね。初めて遊作の復讐を知った時、手伝ってあげたいって思っていたし、早く終わってほしいとも思ってたの。でも、いざ終わっちゃうと…。なんか私、虚しくなっちゃって…」

なまえの声は震えていた。

「おかしいよね。毎日遊作の復讐が終わったら何て言ってあげようと考えてたのに、今は何も言えない。…本で読んだことがあるの。復讐者が復讐を生き甲斐にして生きていたから、終えた後生き甲斐を無くして自殺した話。作り話だと分かっていても…。遊作はそうならないでね?」
「…ああ。当たり前だ」

俺の答えを聞くと、なまえは眉を下げたまま微笑む。再び歩き始めると、俺の隣でなまえの足音が聞こえる。

「そう言えばアイと別れる時、お前に礼を言っといてくれって」
「そう」

この会話の後、俺達は何も話さなかった。きっとなまえは頭の中で色々整理をしたいのだろう。

「本当に送らなくて良いのか?」
「ええ。もうすぐそこだし」

最後まで何も話さないでいると、俺となまえの家の分かれ道に着いた。今までならなまえの家まで送って行ってたが、今日はなまえがそれを断った。

「じゃあ、気を付けて帰れよ」
「遊作もね。ちゃんとお風呂に入ってから寝るのよ?」
「分かってる」

帰ろうとなまえが背を向ける瞬間、なまえの横顔が目に入った。それは今まで見た事の無い悲しい表情。

「なまえ!」

俺は思わずなまえの名前を声に出してなまえの足を止めた。

「さっきの質問だが、この後は草薙さんの店の手伝いをしようと思う。今思い付いたんだ」

なまえは目を見開いて驚く。そして、すぐいつもの微笑みを見せてくれた。


[back]