昔、本当に小さい頃。おじいちゃん家にきて迷子になった。広すぎる屋敷で、俺は兄貴に手を取られ、しん、と静まり返った不気味にすら思えるそこを練り歩いた。
やがて、人を見つける。結構歩いた。
それは兄貴と同じくらいの年の男の子だった。ひとりで、広い真っ白の砂利の庭の上でふわふわと紙風船を浮かばせていた。桜だったと思う。桜がはらはらと舞っていた。その中にいる少年は妖精のように見えた。美しいという感情を初めて思った。
しばらく兄貴と見とれていると、彼はこちらに気づいて手招きをした。そして、近づくと彼は逃げていく。それを追っていくといつか見失ってしまって、気づけばもとの母屋へと辿り着いていた。本当に妖精だったのかもしれない。その後、あの場所に行っても誰もいなかった。



「よお、和輝」

急いで母屋へと向かうと黒いスーツを羽織った兄貴がいた。にやり、と嫌な笑みを浮かべている。自分が、あからさまに顔が歪むのがわかる。
俺は兄貴が嫌いだ。親父も嫌いだ。
俺にとっての心の寄りどころは先ほど会った葵さん、彼のもととなっていた。

「せっかくのじいさんの呼び出しなのに、ふざけたナリだな」

鼻で笑われる。無視して先に進む。
兄貴は次期党首の親父の子供としての扱いでこの組にいる。俺は親父のことは隠して、下っ端の下っ端から入って組の下から学んでいる。
あの男の子を探して。

「俺、見つけたぞ」

その言葉に目を見開き、振り返る。中を仰ぎ、兄貴は笑っていた。ゆったりとこっちを見た。いつもはキツい顔つきが見たこともない穏やかなものとなっていた。ぎしり、と廊下がなって、兄貴は俺の肩をつかんだ。

「あれは俺のもんだ」

ぎしぎし、と音が遠ざかっていく。俺は呆然としてしばらく動けなかった。先に見つけられてしまった。
俺は猛烈に葵さんに会いたくなった。


***


祖父、光晴の呼び出しで俺は親父の実家にやってくると、いつも決まって彼を探す。しかし見つからない。いつからか、あれは幻だったのだと思うようになった。
しかし、あれは幻などではなかった。

「すみません」

誰もいないこの空間で自分だろうと声をかけられ振り向いた。それはあの時の彼のようだった。まさかとは思った。
彼が笑うと花びらが見えた気がした。
和輝は気づいていなかっただろうが、迷子になったとき、母屋にたどり着き、母親に怒られたとき、ふと廊下の角から見ている彼に気づいた。彼は俺と目が合うと、ふわりと笑って手を振って、消えた。追いかけようとしたら母親に首根っこ掴まれてしまい、追いつけなかった。
その時の笑顔と目の前の男の笑顔は記憶の中で一致してしまった。
身体の中からあついものがこみ上げてきた。こんな感覚、初めてだった。母屋への足が速くなる。
いた、見つけた。
むくむくと自分の中の所有欲があふれてくる。

「お前は、俺のものだ」

受け取ったハンカチに唇をあて、囁いた。


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