変に昼寝をしてしまうのは、いけないな。
いつも眠れなくなる夜に困るのだけど、あの明るいうちのうとうとと微睡む時間はやめられない。
綺麗な月を部屋の前の縁側で見上げながら思う。ゆらりゆらりとうちわを扇ぐ。虫の音が重なる。心地よい夏の夜だ。
こんなに心地がよいのに、布団に入っても目は覚めるばかりだ。枕元にある本を読むのにも飽きてしまい、ぼんやりとしているのだ。今頃、みんなはお仕事かな、と強面のみんなのことを思う。明日はかくれんぼをしよう。それで気持ちよい疲労感の中で微睡むのだ。うん。
ゆったりとまばたきをひとつすると、ぎしぎし、と床を踏む音が聞こえる。幽霊というやつがいなければ、こんな時間に来るのはひとりしか思い浮かばない。

「よお」

暗がりから現れたのは、予想通りの彼だった。

「こんばんは、龍輝さん」

僕がこの世で光晴さんの次に緊張する人。光晴さんの一番目の御子息、龍輝さん。
身長が高く、威圧感がある。その威圧感は身長だけのせいではないだろう。綺麗な黒髪をオールバックにしているのは、仕事行きの証拠だ。
彫りが深く、はっきりとした目鼻立ちが月夜に照らされる。神秘性すら感じられる。

「お仕事は?」

僕のことばは聞こえてるはずだけど、答えてなんかくれない。
いやらしく笑ってる。こんな日の龍輝さんはいいことがあったときだ。八重歯が光ってみえる。

「綺麗な月だな、こんな日は狼がでるかもなぁ」

近付けば近づくほど、全身から出す凄みにのみこまれる。さすが次期党首。圧倒的な存在感である。
目は離さずにそんなこと言われて、僕はもう動けない。何も言わずに、にやりと笑う彼は僕の腕を掴みあげ、部屋へと放り込んだ。
ばさり、と、彼が持っていたスーツジャケットが畳の上に落ちた。あ、せっかくの高級品が。皺になっちゃう。
気付いた時にはもう覆い被さられていた。

「龍輝さん、スーツが…っ、」

起き上がろうと上半身をあげると、後頭部のあたりの髪の毛を鷲掴みにされて、痛みに顔をしかめる。

「あんな安物のこと考える余裕あんなら、少しでも喜ばしてくれよ」

べろり、と突き出した顎を舐められ、そのまま舌はつたい、口内を荒らす。うまく息づきをしないと本当に意識を失いかける。何度か最初は危ないめを見た。
このお仕事を何年もしてるけど、一番命の危機を感じるのは、龍輝さん。





いつからだろう。僕と龍輝さんの関係がこんなことになったのは。
すごくぼんやりしている。
この屋敷に入ったからといって、特別に光晴さんからメンバーの紹介なんてものはなかった。といっても、はじめて龍輝さんと会ったのは、屋敷に入りたての頃だった気がする。まだ小学生だった。
中庭で紙風船をひとりで浮かしていた。ざくざくと石を鳴らしながら数人の男の人がきて、その先頭に龍輝さんは立っていた。龍輝さんは黒スーツを身にまとっていたが、片腕はギプスをしていて、頭には左目も覆うように包帯を巻いていた。

「あの、これ」

目の前にやってきたから、僕はポケットからガーゼの柔らかいハンカチをだして、龍輝さんへ差し出した。
後ろにいたスキンヘッドでサングラスの大きな男の人が動こうとしたのを片手をあげて龍輝さんは制した。

「おでこに、血がにじんでますから…」

包帯が巻かれたおでこの部分が赤くにじんでいた。
龍輝さんは少しだけ目を見開いてから、かすかに笑った。そして何も言わず何もせずに去っていった。僕はそっとハンカチをしまった。
それ以来、龍輝さんを遠くから見ることはあっても話すことなど一度もなかった。次に龍輝さんに会ったのは、僕は仕事をするようになっていた。
90を越すおじいちゃんのお相手をした晩だった。おじいちゃんは、僕と彼の側近もしくは部下とのセックスを視姦する方だった。
まだ仕事を始めたばかりで疲れて帰ってきて眠りについているときだった。
がたんと大きな音がしてぼんやり目をさますと布団を剥がされ、肩を掴まれ、仰向けにされたと回らない頭で思っていたら、荒々しいキスをされていた。
突然のことに混乱し、微力ながら抵抗をしめす。肩を叩いても押してもびくともせず、むしろその舌に翻弄されて息絶え絶えであった。
酸欠でくらくらしていると着ていた浴衣を剥がれ、愛撫された。開けられた障子から零れる月明かりで彼の顔が浮き彫りになった。

「りゅ、き…さん…」

がり、と乳首を噛まれ息が詰まる。涙がこぼれた。…乳首とれちゃったかと思った。

「いたい…」

ぐりぐりと親指で両方こねられれば、次第に嫌でも熱くなる。痛みがじんじんと脳に伝わると痛みなのか快感なのかわからなくなっていた。
こねまわす龍輝さんの手首を握って、快感に震える。胸を押し出すようになってしまう。手首を握っているのは拒絶からなのか、ねだっているのかは自分でもだんだん不明瞭になってきた。

「こっちも開発済みなのかよ」

ち、と舌打ちをして、どすの聞いた声で言われると僕は現実に引き戻された。
がっ、と口内に指がつっこまれ、それはばらばらと動き舌を愛撫のようにいじったり上顎を撫でてくる。涙をぼろぼろこぼしながら一所懸命呼吸する。
ねとり、と口から唾液まみれの指が去ると足を胸につくほど曲げさせられた。そして、その指が一気に孔をつく。
苦しさにのけぞり、下半身に力が入る。

「や、だ…っ、こわ、い…!」

ずりずりと逃げ腰になっていると足を掴まれ元の位置に戻される。

「へえ、ちゃんと恐怖はわかんのか」

にたりと笑う。肉食獣の前に晒し出された気分で、少し震えていた。ばさりとシャツを脱ぎ捨てると、カチャカチャとバックルをはずしいきり立ったそれを取り出した。見たこともない大きさのグロテスクなそれに血の気がひく。何人か相手はしていたがこんな大きさ見たことない。あれが入るのか。僕に。

「そ、そんな…はいらな…」

ふるふると首を振る。

「その顔、たまんねえな…」

舌なめずりをしながら飲み込むように囁いたその言葉は僕には届かなかった。
震える唇をかぶりと噛みつくように唇で覆われた。だらり、と唾液が流し込まれてくる。ぐいぐいとあつい舌が押しつぶしてくる。飲むように試みるも飲みきれない唾液は口の端から零れていく。

「ん、っあ、ん……んぐぅーーーっ!!!」

ずぷり、とあれが僕を突き刺した。身体が真っ二つにされるかと思った。目を見開いて、涙がほろほろ零れる。
唇をやっと解放されたと同時に一気に酸素を取り込む。むせて咳ごんでいたが、その最中に構わずといった風に龍輝さんは律動を始める。
無理。ついてかない。くるしい。

「お前は俺のもんだ。許さねえ。絶対許さねえ。」

がつがつ骨がぶつかる。奥の奥まで届いてる。こんなに深くあついものは初めてでついていけない。





それから大体満月と新月の周期くらいで龍輝さんは訪れるようになった。
初めての夜の次の日は光司さんが慌ててきてすごく焦っていた。あんなに感情が現れている光司さんはたぶんこの先も見られないと思う。

「んぅっ、は、あっあっ!」

耳朶を噛まれながら、がつがつとぶつかる中、僕は喘げるほど経験もつんだし、龍輝さんにも慣れた。奥までいれて、奥を小刻みに揺らしぐちゃぐちゃにされてしまう。今では快感ばかりである。
あせばんできた、その広い背中に腕を回し、必死にしがみつく。


僕は、龍輝さんの背中が好きだ。男らしくて広い背中は頼りたくなってしまう。なにより、その筋肉のついた広い背中に彫られた鮮やかな龍だ。
一度、情事後に、その龍について尋ねたことがある。もちろん機嫌のよろしいときに。
その時、教えてもらったのだが、うちの組は代々次期党首の背中全面には龍が彫られる。そして、党首になった暁には、その背中に桜吹雪が追加されるそうだ。
僕はそれを聞いてから、光晴さんの背中にもこんな鮮やかな龍がいて、それは儚い桜吹雪に包まれてあるのか、と思うと興奮を隠せないのだ。


今日も何度も吐精し、され、へろへろになりながら、今、煙草に火をつけているその背中を見つめる。ぎょろりとした龍の目玉、するどい爪先、輝く牙。たくましい鱗。龍の尾は先端へグラデーションとなっていて、様々な色を成している。
ああ。これが、光晴さんと同じなのか。
スラックスをはき、ベルトを整えている龍輝さんの後ろに震える下半身を叱咤し、立ちあがる。その龍に触れ、そっと口付けをし、ぺろ、と少しだけ舐める。今日もいっぱい爪をたててしまった。そこに頬擦りするようにゆるりと抱きつく。

「んだよ、まだ足りねえのか?」

言葉は荒いが、声は優しい。
目を閉じると、とくん、とくん、と鼓動の音がする。暖かい。すき。

「とんだ淫乱だな」

そう悪態をつかれて、またキスをした。

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