僕は朝、早く起きるのが好きだ。特に熟睡出来た翌朝は。
朝起きたら、好きな人が隣で寝ていてくれて、その人のために朝食も作ってみたりなんかして。
冷蔵庫にあった有り合わせのもので適当につくり、パン派の彼のために食パンをトーストしようと思い、いつもの棚をのぞくと、どうやら今は品切れのようだ。
仕方がない。
コートを着て、お財布と携帯を持って出かける準備をする。
まだベッドで眠りについている彼の幼い寝顔を少し見つめてから、優しく声をかける。

「僕、ちょっとコンビニに行ってくるね」
「んー…」

うすく目が開いて、寝ぼけている顔がまた可愛くて頬がゆるんでしまう。

「パン買いに行ってくるね、すぐ帰ってくるから」
「んー…」

布団から腕を伸ばしてきたので、その力に従って、彼の唇に僕の唇を重ねる。

「いってらっしゃい」

ぽや、とした寝起きの笑顔で見送られて僕は部屋を後にした。しあわせでたまらない。





コンビニについて、雑誌コーナーを横切り、目的の食パンを手にしようとした。雑誌コーナーを横切った瞬間に気になる文字を見つけてしまい、僕は立ち止まった。
その文字を凝視し、すぐに手にとり、開いてみた。
それは、今日発売のあまり有名ではないゴシップ誌である。

「…………」

言葉が出なくて、頭が真っ白になった。

人気絶頂アイドルTはゲイだった!そのお相手は二股交際!!

パラパラと震える身体を叱咤しながら、見てみた中身は、人気絶頂アイドルTといえばツカサしかいないし、ツカサと僕のことが名前を伏せながらも詳しく書かれていた。さらには、モザイクがかけられてはいたが、明らかに誰だかわかるような写真も載っていた。
そこに書かれているのはツカサのことだけではなかった。
卒業アルバムの写真に黒線が引っ張られた僕がいた。
記事の中で、僕はツカサと熱い一夜を過ごしツカサを見送ってから、すぐさま違う男のもとへ走った汚いオトコとして描かれていた。彼のことも少し書かれていた。

雑誌をたたみ、視線を移すと目に飛び込んできたのは超有名女性誌がツカサとこの前共演していた女優との交際を結婚間近だとデカデカと報じていた。
猛烈な孤独を感じた。
急いで彼のもとへ帰ろう。歪む顔を隠すようにうつむきながら、コンビニをあとにしようとした。そのとき、誰かにぶつかってしまった。

「すみません…」

うつむいたまま横を通りすぎようとした時、嗅ぎ覚えのあるにおいで一瞬冷や汗がにじんだ。
腕をつかまれ、僕の予想は確実なものとなった。にこりと笑ったサングラスに帽子を身につけたツカサは僕を車に引きずるように後部座席に詰め込み、発進しはじめた。



「いやーびっくりしちゃった。まさかばれちゃうとはさー」

ははは、なんて明るく笑っている。これは、液晶画面で見るツカサの笑顔だ。

「事務所の社長が急いで根回ししてさー、笑える。俺があんなブスな女、口説くわけねーじゃん」

子供のようにけらけらと笑う。

「…止まって……」
「ん?」
「僕、帰らないと…」
「帰るって、どこに?」

いきなり冷たい声にどきりとする鏡にうつるツカサは笑っていた。

「帰る場所なんかないでしょ?俺のもと以外に。俺が買ってあげたマンションにも帰ってないし、だからホテル代として毎回充分なお金はあげてたでしょ?」

ねえ?と笑うツカサの目は完全に怒っているときのツカサだった。僕はそれ以上何も言えなくなってしまった。汗がにじむ。
とりあえず、彼に連絡をしなければ。なんて打とうか少し悩んでから、急用を思い出したから帰ると震える指でなんとかメールをうつ。いつも通り嘘丸出し。

「誰にメール?」

はっ、と気付いたときにはもう遅かった。
いつの間にか車は地下駐車場に止められ、ツカサは運転席から降りて後部座席のドアを開けて、こっちを見ていた。いや、笑顔で見下していた。

「例の彼でしょ?」

だらりと冷や汗が背中をつたった。

「あははっ、あったりー」

ぐい、と僕を奥においやって車内に乗り込んできた。そして、ドアがしめられる。

「ご、ごめ…ん……ごめんなさい…」

ツカサのオーラに圧倒されて自然と謝罪の声がうまれた。かたかたと身体も声も震え、涙が今にも零れ落ちそうだった。

「なんで謝るの?お前は悪くないよ」

にたりと笑うツカサは、僕に触れる。

「全部あの井上って男が悪いんだから」

耳元でねっとりと囁くと両手で僕の首を撫でる。その瞬間に涙が零れた。

「違う!僕がいけないんだ…全部僕がいけない、んだ…ごめんなさい…ごめんなさい、つかさぁ…」

縋りついて泣き叫ぶように言葉を発する。

「一番いけなかったのは、俺だよ」

ツカサは離れていった。
座席に身体を沈め、無表情で言う。これは、司だ。

「俺が信じきっていたせいだ。だから、お前は浮気した。俺の愛が足りなかったからだ。俺が全部いけないんだ。俺がいなければ、いいんだ。…ああ、そうだよ。なんで今までこんな簡単なことに気付かなかったんだろ…ハハッ、笑える」

まずい、と思った。とても冷静なれる状態ではなかったけれど、もう司は限界にきているんだとわかった。司はポケットからなにやら薬を取出し、見つめだす。

「なあ、最期にキスしてくれないか」
「さいごって…」
「愛してるって言って、キスしてくれ…そしたら、俺はしあわせなまま死ねる」

カプセルをつまむ手にしがみつく。

「やめてよ…死ぬなんて言わないでよ…」
「俺はお前がそばにいないと生きていけない。俺はお前が俺だけを愛さないと生きていけない。だから、死ぬんだよ?」
「ごめん、ごめんなさいぃ…死なないで…僕には、司だけだよ…」

だらだらと涙を流しながら、司の手にすがりつく。

「…本当に?」

むせながらも頷くと司に抱きしめられた。

「じゃあ、あの男、殺してきてよ」


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