テレビの中でライトを一身にあび、たくさんの歓声の真ん中にいる人物を見つめる。真っ暗な部屋で、ひんやりとしたシーツの上で、ぼんやりと。
いきなり、机の上にあった携帯が震えだす。
ちらりと見ると男の名前が見えた。胸がじくじくと痛む。それを隠すために、さっきまでの情事に思いを馳せるようにする。
ツカサは、かっこいい。
テレビの中で汗で髪を張りつかせ笑顔で歌うツカサも、さっきまで僕のことを揺さぶりながら、汗を滴らせ妖艶に笑うツカサも。確実に同じツカサなんだ。
ぎしり、とベッドがきしむのがわかって、シャワーを終わらせたツカサに気付いた。
「隣にいるのに、なんでテレビ見るんだよ〜」
頭をぽんぽん、と叩かれた。顔を向けるとキスをされた。
唇を舐められたところで離れていった。そして、立ち上がったツカサは髪の毛をタオルで乱暴に拭いながら携帯を見た。何度か画面にタッチして、どこかに電話をした。ホテルの名前だけ告げてその通話は終わった。おそらくマネージャーだろう。
「次は…いつ頃会えるかな」
テレビを見つめながら、聞いてみた。
「今度は、新曲撮り終わったら少し会えるかも」
「そっか」
ツカサとの関係が始まって、早三年が過ぎようとしている。始まった当初のツカサは、まだ売れていなくて。一緒に動物園にいったり、普通のデートもそこそこ楽しんでいた。
ツカサの知名度があがればあがるほど会える時間が減り、今は今日みたいな時しか過ごせていない。
こっそりホテルで会って、キスをして、セックスをする。それで終わり。
「この前のドラマ、すごく良かったよ」
「ありがとう」
良かったよ、以上に具体的に話をできるほど見ていない。
テレビの中のツカサは、違うツカサのようで、見れば見ているほど悲しくなってくるのだ。
「あの女優さんとも、すごく息がぴったりで…」
「やめろ」
ぴしゃりと冷たい声色で言い放たれた。バンッ、とテレビの電源を叩きつけるように消された。思わずびくりと身体が跳ねる。
「俺以外のヤツ、見ないで?こんな偽物の俺も…本当の俺だけを見て」
ぐ、と顔をつかまれる。悲しげな顔をするツカサの手の力が強くて顔をしかめる。
「ごめん、ツカサ…手、いたい…」
「今、目の前の俺だけを見てよ…」
手の力はゆるまないまま、食われてしまうようなキスをされる。ぐちゅぐちゅと唾液が絡まり、顎をつたい落ちる感覚が気持ち悪い。
それに答えるように、ごめんねと言葉にする替わりに、優しく髪を撫で、キスに応じる。
しばらくし、落ち着いたツカサはやっと唇を解放してくれる。
「…つかさ」
優しく、優しく。
「司、司…」
湿る髪を撫で、頬を手のひらで包む。安心したように司は抱きついてくる。
知名度が上がり、あまり会えなくなって、キスとセックスくらいしか出来なくなっていくのと同時に、司の精神もだんだんと不安定になってきた。
ツカサと司。
一人の人間にふたつの顔がある。少なからず彼にとっては、ストレスなのだろう。
それを、少しでも緩和させてあげたいと思うのだ。
抱きしめ、子供のようにかすかに震えている司に大丈夫だよと囁いた。
しばらくそうしていた後、携帯が振動し、司は急いで着替えて部屋を去る。
毎回、名残惜しそうに眉を下げながらのツカサを玄関まで見送る。
「頑張ってね」
「…うん」
ちゅ、と唇に吸い付いてあげる。
「いってらっしゃい」
そう言って、手を振った。
扉が締まる音がすると、だんだんと疲れが出てくる。
ベッドに戻って、ばふん、と身体を預ける。ふ、と短いため息をつく。
とんだ茶番だ。
司は、アイドルとして成功してから浮気が絶えない。スキャンダルにならないのは事務所が必死になって守っているからだ。それでも、僕にはわかる。さっき話にだした女優とも絶対に寝ている。それも一回や二回ではないだろう。
本当は、僕らの間に愛なんてもう存在しないんだと思う。
携帯を取り出して、電源を入れ時間を確認する。
間に合うかもしれない。僕は急いでシャワーをあびて、身支度をすませ、部屋を飛び出た。香水を軽くつけて、誤魔化す。タクシーを捕まえ、駅前の家電量販店を目指す。
早く、会いたいな…
タクシーから、夜の街を見ていてより強く思う。司といたって、彼のことを思ってしまうのだ。