それから、程なくしてほぼ同棲のようなことになり、家に帰ればいつも霧人がいた。
疲れて帰れば、飯も風呂も用意されていて生活も潤ったし、霧人がいてくれることで、心も潤った。霧人は居酒屋のバイトをやめ、昼間のバイトにうつった。この時が一番しあわせだったかもしれない。
ある日から、時々、霧人から女のにおいがした。香水と化粧のにおい。服にファンデーションやら口紅やらがついていることも多くなった。あまりにも頻繁だったため、出てけとまたひと悶着おこすとしばらくはそれも消えた。
俺が出張で、一週間海外にいって帰ってきてから、また霧人はおかしくなった。
同じ家に帰ってくるものの、帰宅は霧人の方が遅くなった。そしてまた、女のにおいをつけてくる。…あまり、俺に触れなくなった。
指摘するとしばらくはなくなる。が、やはりそれは絶対についてくるものになっていった。
「ただいま…」
いつもより、少し早めにあがれたのでその分、早くに帰宅すると、玄関には霧人のスニーカーと…この玄関にあるはずのないハイヒールがあった。
その事実に指先から体温が失せてゆく。かすかに震えているかもしれない。
駆け足で寝室のドアを開けた。最悪だった。
ふわ、とタバコの煙をはく。気持ちが落ちつく。
俺はあの日から自宅には戻らず、携帯からヤツを抹消し、心の中でも抹殺した。
と、そんな簡単に心からは抹殺できず。出来たらこんな関係いつまでも続けていない。
「はー…」
会社の屋上で、タバコの煙と共に盛大にため息をつく。
「どうしたーしあわせが逃げるぞ?」
かしゃん、とフェンスに寄りかかりタバコに火をつけたのは同僚の山坂だ。
「なんかもう、疲れちゃってなー」
「だから、タバコなんか始めたのか」
俺はタバコを持ちはしていたが、余程仕事に詰まった時くらいしか吸いはしなかった。ところが、ヤツと知らない女が自分のベッドで寝ているのを見てからタバコがないとつらくなった。あと、もちろん酒。
「なに、色事?」
「色事って…」
タバコを吸って気持ちが落ちついた勢いで話してしまおうと自分にいって、ぺらっと山坂にヤツのことを話した。
「俺のコレがさ、俺のベッドで浮気してたわけよ」
コレ、と小指を立ててみせる。それに山坂はむせた。
「いやー、まさかお前がそんなハードな彼女と恋愛してるとは思わなかったよ」
ま、彼女じゃないけど。
「んで、どうした?別れた?」
「まあ…」
「傷心なのか、御愁傷様…そういうつらい時はな、料理がいいぞ!」
ハア…?
山坂はぶっ飛んだことをいきなり放ってくる。それは仕事でも日常茶飯事であった。しかし、その発想力はなかなかのもので、点と点をつなぎあわせていくと必ずいい仕事ができた。
「料理、ね…」
だから、その山坂の提案もきっといい結果がうまれる気がしていた。
「料理…したいけど、どこでなら出来る?」
そうだ。俺はそれよりも早く部屋を確保しなければ。