霧人は大学生だ。時間を持て余し、年頃相応の性欲も持て余している。だから、浮気をするのだろう。
でも、俺は社会人で、仕事はまだまだハードで。時間は足りないし、性欲が暴れ出すほどの気力はない。だから、霧人と恋人らしいことが余り出来ていない。
その辺は申し訳ないと思っている。だから、浮気する霧人を強く攻められないのだ。浮気される俺にも、原因があるから。
仕事でとある居酒屋を訪ねたときだった。そこでアルバイトをしていた霧人と出会った。
俺は金色の髪の毛で、かっこいい男の子がいるなあ、くらいにしか気をとめていなかった。実際、店長を呼んでくるように頼んだくらいしか会話はなかったし。その程度だった。
だから、後日、いきなり帰宅途中で声をかけられた時には誰だかわからなかった。
その時にいきなり告白されて、なんだかんだで家までついてこられて、気付いたら全裸で抱きしめられていた。
隣ですやすやと眠る寝顔が、可愛くてつい顔がゆるんだ時には惹かれはじめていたのだ。
霧人は東京の大学進学と共に上京し、一人暮らしをしていた。そのマンションがうちのマンションから歩いて五分程度の場所にあった。
最寄り駅もよく行くコンビニもスーパーも本屋もほとんどが一緒だった。霧人は嬉しいだなんて喜んでいた。しかし、それは後に俺にとっては最悪になる。
残業を終えて、なんとか終電に間に合ってとぼとぼと駅から自宅へ歩いているときに、コンビニの前で女の子とキスしている恋人を見た。
その時は、自分でも一応は霧人の恋人だと思っていたし、好きになっていた。
ショックだった。
走って自室に戻り、日頃あまり飲まない缶ビールを三本空けてから眠りについた。
もう終わりだと、連絡を断った。メールが来ても電話が来ても。あまりにもしつこいので、着信拒否にした。
事実、仕事がまた忙しくなり、浮気のことも会社では考える暇はなかった。時には、終電を逃したり仕事が片付かなかったり、会社で一泊ということも多々あり、その時期は一週間の内、帰宅する回数の方が少なかった。
やっとのことで仕事が一段落ついて、打ち上げをして久しぶりに終電に乗って帰宅した日のことだった。
達成感とほどよいアルコールで気持ちは最高によかった。マンションにつくまでは。
目を疑った。マンションのエントランスで数週間前と同じ光景を見たことを。
知らない女の人と金髪の男がキスをしていた。
その瞬間に忘れていたものが、風のように、ぶわっ、と思い起こされてきた。
震える心を握りしめ、裏口の階段から自室に戻った。
あついシャワーをあび、再び缶ビールを二本空けて眠りについた。久しぶりの布団は最高に気持ちよかったが、気持ちはアルコールに覆い隠させた。