「さよなら…」

ドア一枚向こうでナツは別れ話を終えたようだ。
俺は急いでソファーに横になり、テレビをつける。お気に入りのクッションを枕に。

「あれ、達也…まだ起きてたの?」
「んー」

自室から出てきたナツは共有キッチンに立った。その背中はしょんぼりとみえた。そりゃそうだ。彼氏と別れたんだから。
紅茶をふたつ持って、俺の目の前に置き、カーペットに座った。
静かなドキュメンタリー番組を流しながら、俺はナツだけを見つめる。ナツは適当にテレビを見つめる。
俺たちは特に言葉を交わさない。去年から同室だが、なんだか隣にいるときの沈黙が心地よく、落ち着くのである。ナツがいてくれるだけでいい。輝く黒髪に、あまりにも白いうなじが視線を反らすことを許さない。

「俺…当分、恋人はいいや」

ぽつりと独り言のようにナツは放った。
こう言って、一週間程度たつとナツにまた新しい彼氏が出来る。そして、別れる。そして…
どんどん、と力強くドアが叩かれた。少し身体を跳ねさせ、ナツがそちらを見やる。

「ナツ…ッ!出てこいよ!」

不安に瞳をかすかに揺らめかせつつ、ナツは立ち上がる。その手を掴んで、俺が替わりにドアを開ける。
そこには、ナツの彼氏だった男。

「うるせぇよ、クソ野郎…」

俺を見てから、相手は一瞬ひるむ。また視線を強くし、この男は言う。

「ナツは…ナツをだせ…」
「もうお前とは関係ないんだ、そんな馴れ馴れしくナツなんて呼ぶなよ」
「お前には関係ない!おい、ナツ!」

大きく舌打ちをしてから、おもいっきりヤツを睨み付け、ヤツの額を手のひらで覆うようにこめかみを押さえる。食いしばり、低く囁く。

「ナツはてめぇみたいなゴミクズが触っていい様なレベルじゃねーんだよ」

ギリギリと手に力を込めると相手は苦しそうにもがいた。手を離して、どん、と身体を突飛ばし、尻餅をついた相手に一言。

「二度とナツの前に現れんじゃねえ、チンカス野郎」

ドアを閉めて、鍵をかける。ああ、胸クソ悪い。

「達也…」

か細い声で呼ばれ振り返るとナツが立っていた。

「ごめんね…」

ここまで、いつもと同じ。何回繰り返しただろうか。

俯くナツの頭をあいつに触っていない方の手で撫でる。隣をすり抜け、さっきの定位置に戻る。
少ししてから、ナツもさっきの場所に座る。
テレビの音だけがする。
ナツはテレビを見るのではなく、俯いていた。露になったうなじをそっと撫でた。びくり、としてから、ナツは俺を見る。瞳が濡れていた。

「もう少し、相手選べ」
「…うん、ごめんね……」

ありがとう、と小さくつぶやく。俺の言葉が苛立ちではなく、心配してることをナツはわかっている。

「俺、浮気症の人を呼び寄せる何かがあるのかな…」

力無く、ナツは笑った。
毎回そうなのだ。
俺の知っている限り、ナツは入学してから付き合った相手すべてに浮気され、それが原因で破局している。今ので五人目。復縁したこともあったが、結局同じことが起こる。でも、皆一様にナツが好きだからと語る。あまりにもひどいと一発二発殴ってしまうことも多々ある。

「そんなことねぇよ」
「え?」

撫でていたうなじに手を添えて、俺はそっと唇を寄せた。
何度も思い描いたそれは、あまりにも柔らかく、あたたかく、あまかった。

「んっ…」

吐息を感じて、我慢出来ずに舌を入れた。ソファーから身体をおろし、その口内を味わう。うなじから手を下に滑らせていくと華奢すぎる身体にどんどん欲情する。
つ、と唇からの糸が俺たちをつないだ。

「だ、だめ…達也…っ」
「ナツ…」

自分の低い声と共に出た吐息でどれだけ興奮しているのかがわかった。
頬や瞼にキスをするが、ナツはダメだと言った。

「…なんで、俺はダメなんだよ?」
「だ、って…俺…達也に捨てられたら…もう、ここにはいられなくなる…」

赤くなった頬で視線を斜め下でつぶやくナツ。

「…達也だけは…達也だけには、ずっと…隣にいてほしいから…」

潤んだ瞳が俺の視線をとらえる。

「だから、ダメ…んっ」

バカ。んなこと言われて我慢出来るほど、俺はバカじゃねーよ。

「ん、はぁっ…あっ、たつ、や…だめっ…!」

ゆっくりと後ろに押し倒して、覆いかぶさる。

「ナツは、浮気症を呼び寄せるんじゃねーよ…色男を呼びつけるんだ」
「ん、ぅっ…あっ」

首筋に吐息をかけながら、囁く。シャツの上から親指でその小さな突起をこねる。

「それに、俺はナツに呼び寄せられたんじゃない」

その白い首筋にちゅ、と少し強めに吸い付いた。

「ナツが俺に、呼びつけられたんだよ」




お前の考えてることなんて、言わなくたってわかるんだよ。



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