少し歩いたとこにある公園で、早急コンビニで買った酒をちびちびと飲む。ジュースのようにあまく、おいしいこれじゃ、もちろん酔えない。
ちなみに、早急の電話は嘘。どこにも繋いでない携帯に耳をあて、ひと芝居しただけ。あんなの、信じちゃって。
「本当に、あいつってバカ」
また、一口。ぱちぱちと炭酸が弾ける。
あんな猿芝居を信じちゃったのは、俺が昔、何度かゲイバーに通っていたという事実をあいつが知っているからだ。それを告げたとき、あいつはすねた。その後、甘えてきた。その理由は想像出来て、可愛いから聞かないでやった。
あいつは、アホで感情的だから扱いやすく、根はすごくいい子でそんな自分を隠そうとしてる、とにかくガキで、ガキらしくて、すごい可愛い。見た目は身長は百八十は裕にあり高過ぎで、強面だけど、あのつり目の流し目はきっとたまらないという人は多いだろう。俺は、今じゃ可愛いとしか思わないけど。
「早く、電話してこい…」
そしたら、許してやるから。夜風がそよそよと木々と俺の前髪を揺らす。心地よさに座っていたベンチに横になる。独特の臭みをもつベンチの上で瞳を閉じる。
刹那、あいつの甘ったるい香水の匂いがした。背伸びしてガキが香水なんかつけちゃって。俺はもっとガキには汗とかのにおいをまとってもらいたいわけよ。って言っても、きっとあいつは気持ち悪いとしか言わないだろう。
「おいっ!」
「わあ!」
急に誰かに肩を捕まれ、大きく揺さ振られた。目を開くと彼は、猛だった。
「よかった…」
そういって、抱きしめられた。猛からは、俺の部屋の匂いとかすかな香水の匂いがした。かすかな汗のにおいも。
どうやら、走ってきたのか少し汗をかいていた。
「……なあ…」
頭では冷静にそんなことを感じていると猛が口を開く。俺はそれを黙って聞く。
「…どこにも…誰のとこにも…行くなよ」
少しだけ震えた吐息を耳元で感じる。しっかりと俺の後頭部を包みこんでいる大きな手のひらが震えているのかまではわからなかった。俺は石のように押し黙った。
少しだけ沈黙が訪れる。
「水着になるとお前の身体が他人に見られる。だから、海にもプールにも行ってほしくない。お前は今のままの体型がベストだと俺は思うから、鍛えてほしくない。お前が好きなら、筋肉落としてモヤシでもデブにでもなる。でも、出来たら…俺自身をみてほしい」
珍しくつらつらと流暢に猛は喋った。あまりにも素直すぎて、びっくりした。こいつも俺みたいにひと芝居してんのかと思った。しかし、力強く抱き締めて、服を握り締める手がかすかに震えていた。こいつは芝居が出来るほど器用じゃない。そんなこと、俺が一番知っている。
「……本当は、否定してほしくて、あんなこと言った…」
会話をちゃんと最初から覚えていてくれたから、この流れだと多分クソビッチに関してか?俺もよく覚えてるな。まだまだ若い。
また、ぎゅっと抱きしめ直される。深呼吸している。
「過去に誰に抱かれたとか、そんなのは…またひでえこと言いそうだから、聞きたくない…だから、今は俺だけだって…言葉にしてほしかった…」
ガキくせ。
でも、そんな真っ直ぐな言葉にどんどん心臓鷲掴みにされて、罪悪感が増してるのも事実。
それを払拭するためにも俺はこいつの胸板を押す。今にも泣きそうな、そんな切ない顔をしている。街灯が照らすその顔をそっと撫でる。すると、手首を優しく握られ、その手に擦りついた。瞼をおろし、睫毛が一本一本影をつくっていた。手のひらに唇をあてられ、直に震える吐息を感じた。
「……和紗…」
俺は目を見開く。
こいつは本当に、本当に滅多に名前を呼んでこない。
瞼を閉じたまま、もう一度、確かめるように手のひらに囁きかけられる。
ふるふると手のひらから、振動が伝わるかのように震えるのがわかった。
猛の声は、魅力的だ。とても。低く重みのある声。じん、と身体に響く。
「…好きだ」
さらに本当の本当に、滅多に言わない単語が飛び出てきて、正直かなり翻弄されてる。
おろされていた瞼があがり、熱っぽい瞳に捕まる。
「お前だけなんだ…」
今度は俺がゆっくりと瞼をおろし、触れるだけのキスをした。唇に感じる吐息に、思わず涙しそうになる。
「猛だけだよ」
俺にキスさせるのも、こんなに好きにさせたのも。
そう告げると、抱き寄せられ、しばらくそうしていた。もしかしたら、猛は泣いていたのかもしれない。泣いても泣かなくても今はとにかく猛が可愛いからどっちでもいい。
手を繋いで、家に帰って、それからまたセックスをした。猛がいつもよりもしつこくて、久しぶりに翌朝立てなくなった。
それを少しだけ笑われたから、絶倫野郎と悪態をついたら、顔を背けながら、お前が可愛いからだと耳を真っ赤にして言われた。昨日のことで反省したのだろう。そんなこと、いつもなら絶対言わない。
腰の痛みがあまみに変わった。
君に酔う