涙がこぼれる前に抱きしめられた。

「俺も、苦しかった…」

初めて、奈央人さんの本音を聞けた気がした。ひとつになれると思えるほど、お互いが力いっぱい抱きしめあった。
ややあって、そっとお互いの顔を覗きこみ、触れ合った。

「奈央人さん…好きです…」
「俺もだよ、亜樹…愛してる…」

ちゅ、と唇をはむようなキスをする。

「うまいか、うまくないかなんて、全然関係ないです…俺、奈央人さんだから、抱かれたいんです…愛し、あいたいんです…それに、本当に好きな人に抱かれたことないんです、俺」

背中に手をまわし、奈央人さんの心臓付近に耳を押しあてる。その鼓動音の早さに安堵する。ちゃんと俺のこと好きなんだって。

「俺にとって特別なんです、奈央人さんは」

首筋から鎖骨のラインをするすると撫でた。三十路とは思えない肌触りのよさだ。
すっと顔を撫でられ、上を向くと恍惚とした奈央人さんの瞳に捕まった。
もう一度キスをする。唇に残る余韻が愛しい。

「ねえ…奈央人さん…」
「ん…?」
「舐めたいよ…奈央人さんのお口の中」

また少し近くに擦り寄る。ベッドに乗り上げた奈央人さんの内腿を膝で少しだけこする。

「奈央人さんも、俺の口の中、舐めて…?」

ぺろりと奈央人さんの柔らかい唇を舐める。
くすっ、と奈央人さんは苦笑し、強く抱き寄せられ、唇を塞ぐ。

「んぅ、ふ…っん」

上顎を舐められ、身体が震える。
こんな濃厚なキスをするのは久しぶりだ。ぼんやりと思う。
気持ちいい…
舌を甘噛みし、煽るように吸いつく。さらに口内の動きがねちっこくなる。
やっと唇が離れても、もっと欲しくて…つい、また触れてしまう。

しかし、さすがに酸素が足りなくなって、名残惜しくも離してしまった。お互い肩の上に顔をのせ、呼吸を整える。まるで、セックスのあとみたいに。

「奈央人さん…退いた…?」
「なぜ?」
「だって…俺……淫乱だから…」

仕事のせいか。仕事以外にセックスをしたことがないから、わからないんだ。どうやれば人が喜ぶのかとか。刷り込まれてしまっている。だから、それが、気持ち悪くはないだろうか…今までなんとか我慢していたけど…

「…気持ち、悪い…?」

ゆっくりと肩から離れ、上目気味に奈央人さんを覗き込む。
くすりと奈央人さんは笑った。かっこいい。
そっと唇が触れた。

「可愛くて、困ってる」
「あ…」

ほら、と奈央人さんは俺の手を取り、ジーパンの上からでもわかるほど勃起しているそこにあてがった。

「奈央人さんとのキス、すごく…気持ちよかったから…」

俺もセックスしたばかりだというのに、かけられたシーツをそれが押し上げていた。

「ねえ、奈央人さん…」

首筋に額をあて、奈央人さんの匂いをかぎながら、うっとりと告げる。

「…奈央人さんの、はじめて…もらっても、いいですか…?」

そこにあった鎖骨に軽く吸い付く。名前をもう一度囁きかけて、瞳を見つめる。そっとメガネを外す。少し長い前髪がさらりと揺れた。それを耳にかけ、頬にキスをする。

「きっと、亜樹と会うことは、ずっと前から決まっていたのだろう」

聞き返すと頬を撫でられる。

「退くなよ」

お互い破顔した。

「引っ張られてしょうがないよ」

抱きつくと力いっぱい抱きしめられた。



その夜、何年かぶりにあそこから流血した。その痛みさえも愛しく、挿入してからすぐに吐精したことにもひたすら愛しさしかなかった。
こんなに幸せで気持ちの良いセックスはない。
余談ではあるが、奈央人さんは俺が今まで相手をしてきた人の中で一番の巨根であった。宝の持ち腐れにするところだった。

もうデリヘルは呼ばれない。しかし、俺の情事の回数は増えるだろう。

ああ、しあわせだ。



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