涙が流れる。ひたすらに。
ギシギシとベッドが悲鳴をあげ、乾いた音で皮膚がぶつかり、粘着質な水音が交ざる。
俺をがくがくと揺らす男の汗がこめかみのあたりに落ちた。
そこに足を組み座り、膝に肘を乗せ、その上に顔を預け、俺を見つめる男を俺も見つめる。
「ほら、ちゃんと俺のことも感じてよ」
「んぅ、っ」
揺さ振ってくる男が囁き、前立腺をごりごりと狙ってくる。
「ああっ、は…んんっ、なお、とさ…!」
俺は彼の名前を呼び、吐精した。同時に、男の小さな呻き声が聞こえて、ナカに違和感が残った。またひとつ、涙が零れた。
男から解放され、俺は相変わらずベッドの上にいて、彼を見つめる。
「シャワー借りても、いいっすか?」
「ああ。浴びたら、まっすぐ帰ってくれ」
彼、奈央人さんは男に多めに金を払う。あの男はデリヘルだ。相手は毎回違う。その毎回違う人をほぼ毎日のように相手をするのが俺だ。そして、奈央人さんは見ているだけ。俺はセックスをされながら、奈央人さんを見つめる。
俺と奈央人さんは、恋人同士だ。付き合ってそろそろ一年がたつ。
しかし、セックスは一度もしたことがない。キスだって、子供がするような、フレンチキスだけだ。
情事が終わったあと、泣いている俺に、キスをしてから、身体を拭ってくれるのもお決まりだ。何も会話はない。
奈央人さんは寡黙だ。だから、最初は訳がわからなくて大泣きした。そして理由を訪ねてみたが、愛しているからこそだと言われてしまって、何も言えなくなってしまった。
彼は、こういうものが好みなんだ。そういうことにして、甘んじて流されてしまっている。
俺は、ゲイビテオの出演者だった。女形の。
そんな俺を奈央人さんは、全ての面倒を見てくれている。グラフィックデザイナーをやっている奈央人さんは在宅ワーク中心でほとんどの時間を共に過ごす。俺は、奈央人さんと出会い、ビデオ界から引退し、付き合うことになり、同棲することになってから、生活費から何から奈央人さんにお世話になっている。貯金は正直かなり貯まっている。しかし、奈央人さんは家事をこなすことを条件に全てまかせてくれと言ってきた。
こんな汚れた俺をこんなにも愛してくれる人はもう現れない。俺には、奈央人さんしかいない。
でも…
「奈央人さん…」
「……なに?」
もう、限界だと思った。
明日も明後日も、この先ずっと、俺たちの情事の仕方は変わらない。
「別れよう…」
涙は止まらない。