「義憲…ごめん、ごめんなさい…」
俺の足元でくずれ泣いている少年。小さい身体を震わせながら、同じ言葉を繰り返す。
「義憲がいないと俺、ダメなんだ。苦しいんだ。不安なんだ。義憲が今何してるのか誰といるのか、ずっと気になってしょうがないんだ。俺なんかよりずっと良い奴みつけて、楽しく過ごしてんじゃないかって。そうすると、そいつのこと殺したくなる。本気なんだ。自分が怖くなる。だから、俺はダメなんだ。だから、俺から義憲の気持ちが離れていくんだ。ごめんなさい、こんなダメなヤツでごめんなさい…義憲に迷惑かけたくないんだ。重荷になりたくないんだ。でも、義憲が好きで好きでしょうがないんだ。本当、うざくてごめん。俺なんかが義憲のこと、好きになって、ごめんなさい。俺なんか、生まれてこなければよかったんだ…」
義憲、と俺の名前を繰り返す。
じゃあ、死ねば?
本当は言ってやりたい。言ったら、こいつはどうするのかな。死ぬのかな?
愚問だ。
俺は、絶対にそんなことは言わない。言えない。言わないし、言えない。
床に膝をつき、膝の隣にあった手をとり、抱き寄せる。優しく、優しく。背中を撫でたり、頭を撫でたり。
すると痛いくらい、こいつは抱きついてくる。
「義憲、義憲義憲…許して…ごめんなさい…ごめんなさい…」
こればっかりなんだ。いつも。
月に1回だったこの状態が、半月に1回になり、最近は週に1回になった。
理由は簡単にわかる。俺の母校に転校したからだ。
副会長がやって来たことから、こいつはさぞ親衛隊の方々に揉まれていることだろう。そのストレスがストレスを生んでいるのだ。
「いいよ、許すよ」
この一言で終わることを知ってる。何度も繰り返していることだから。
俺が付き合ってやらないと、こいつはその内、消えるだろう。俺はそんなことどうだっていい。しかし、そうせねばならない理由がある。
「本当に…?」
顔を上げた歩の瞳は涙のせいもあって、きらきらしていた。この瞳が嫌いだった。
「俺は、浮気なんかしないよ」
こんな瞳、見たくなくて、抱き締める。額を胸にこするように顔を降る。
「わかってる、わかってるよ…でも、不安なんだ…どうしても。ごめん、こんなの重いってわかってる。本当、俺なんかが好きになってごめん」
ひとしきりさっきと同じことを述べ、部屋にはこいつのぐずぐずとした泣き声だけが宙をさまよっていた。
しばらくして、落ち着いた頃に口を開くのはこいつだ。
「ね…義憲…」
「なに?」
そっと胸を押されて嫌ながらも、腕の力をゆるめ、嫌いな瞳と見つめあう。
「……浮気してないか、確かめても、いい?」