***


だるい。
なんで、せっかく九州からこっちに帰ってきてるのに、ずっと葵といられないんだ。クソジジイ。何が話があるだ。出ないと言ったら、ジジイの側近で幼い頃からお世話になってる小林さんにとっても怒られた。
さっき、葵が直してくれたネクタイを握りしめると勝手に頬がゆるむ。本当に葵は可愛い。それでもって、儚く、美しい。幼い頃、孤独の海に沈んでいた俺を見つけて救い出してくれた。その優しさと暖かみに惚れ込むのは一瞬だった。
まさか葵が男娼として、うちの組に貢献するということを知ったとき、その感情を抑えることなど不可能だった。目がカッ、と熱くなり、走って葵のもとへ行き、犯した。許せなかった。俺のことを好きだと言ったのに。
腕の中で、右頬を真っ赤にして、くたり、としている葵を見て涙がでた。あのときの苦しさはいつでも思い出せる。
でも、腕の中でいつもの笑顔で好きだと言ってくれた。大切な売り物に傷を負わせたことにより、大阪に飛ばされることが決まり、発つ前に会った葵は俺を受け入れてくれた。
だから、俺は葵を永遠に愛すること、大切にすること、そして、俺のものにすることを決めたんだ。
九州を牛耳る兄弟組で俺は必死に働いた。アブナイこともかなりこなしている。それが実り、もう少しで九州の代表になれそうなとこまで来た。
そうなったら、俺は葵をつれて、九州に住むと決めた。それほどの力を持てば、親父だって、葵を渡してくれるだろう。
今夜、次帰ってくるまでの分の葵をしっかりチャージしなければ。かすれる葵の喘ぎ声はたまらない。ああ。
部屋に入ると兄貴二人が揃っていた。やつらと目があって、ぞわり、とあの時の恐怖を思い出す。
葵を犯したことがバレると俺は監禁された。しばらくすると龍輝がやってきて、暗闇の中、ひどく殴られた。そして、左腕を折られた。痛みなど経験したことのなかった13の俺にはつらすぎた。治療にやってくる光司には、折られた左腕を常に踏まれた。葵には近寄るな、葵はお前には相応しくない、もったいない。散々言われたが、葵自身に拒否されるまで俺は葵を愛し続ける。それを決めたんだ。葵だけは譲れない。
俺は一度目をつむってから、力をいれて睨み返す。
もう少しで、葵は俺だけのものになる。


***


葵は不思議な子だ。
はじめ、いくら親父の命令だとしても、なんで男に床の手解きを指導しなければならないのかと大変不愉快であった。それでも、親父の命令は絶対であり、断ることなど不可能であった。
しかし、実際に会って、俺のその考えは逆転した。無垢で純粋で、真っ白な彼は天からの贈り物だとしか思えなかった。この子を俺好みに変えてしまっていいのかと思うと、生唾を飲み込んだ。こんな歪んだ感情も初めてだった。俺のものにしたい。
キスするだけで、その小さな身体は震え、赤く染まり、必死に酸素を取り込もうと息をあげる。仕事を忘れて、彼を快楽漬けにして、俺がいなくてはならないようにしてやりたかった。自分を押し殺すのは幼い頃から当たり前で得意のはずだった。しかし、葵の前ではそれがひどく難しいことだった。

「そう、そこで締める」
「は、い…んっ」

華奢で、柔らかい身体を開き、ひとつになる。そして、俺好みに快楽を与えてくれるようになってきていた。日に日に葵は美しくなっていく。それが、俺のもたらした艶やかさなのだと思うと背筋がぞくぞくと震えた。
知らないジジイ共にこの身体は勿体なさすぎる。しかし、それもまた親父の命令である。殺したくなる。
日本トップの大学病院につとめ、コネを使わず、院長の娘を虜にし、婚約が決まり、次期院長は決まったようなものだ。いや、実力も日本トップである。確実なものだ。
そうしたら、俺は葵を囲う。
力を手に入れ、誰になんとも言われないほどになり、そうして、俺は葵をあの監獄から救い出すのだ。葵はおそらく、あのいつまでも澄んだ瞳からどの宝石にも負けない美しい雫をほろほろと流すであろう。考えただけでもぞくぞくする。
それまでは、葵を焦らすことにした。仕事としてではなく、俺の本心から葵と結ばれるその日まで。葵は、俺のものになったその日、やっと俺に触れられて、泣きながら、寂しかったと震えるあの声で不安だったことを吐露するであろ。それを優しく包み込む。葵は、俺にのめり込み、死ぬまで俺を欲して日々を生きるだろう。
そのためにも、今は膝枕と、意識を失っている間にこっそりと触れる唇だけで我慢するのだ。汚いやつらに触れられた身体はくまなく俺が常に消毒している。葵を保てるのは俺だけだ。
実家にきたのに、なぜ葵には会えず、こんな好きでもない、むしろ不愉快でしかないやつらと顔を合わさねばならないのか。おやおや、兄貴の二人の息子も来てるじゃないか。兄貴にそっくりな傲慢そのものの長男と金色の頭をしたいかにもバカ丸出しの次男。まったく不愉快だ。親父は一体何を考えているのか。早く話をつけて帰らせてくれ。でないと、葵に会いたくて我慢出来なくなる。
はぁ、と小さくため息をつく。
しかし、こんなにじれることももうすぐ終わりだ。待っていろ、葵。
もう少しで、葵は俺のものだ。


***


なんてクソガキだ。と思った。そして、おもしろいとも。
当時、俺は親父の長男として、次期組長の座は決まっていた。ゆえに、20にもならないガキにいい大人たちは跪き、いやな笑顔で媚びを売るか、恐れをなして目をそらすかだった。それが不愉快でしかたがなかった。誰も俺には味方などいなかった。
そんな中、夜中女と過ごしているところに奇襲をかけられ、なかなか痛い目をみた。しかし、そいつらは自らの手でつぶし、報復もすました。そのことを親父に報告に行く途中だった。
小さな手でハンカチを出してきたクソガキがいた。
俺の顔を見て泣かないガキは初めてだった。さらに、俺の後ろには奇襲を警戒して、強面のやつらがぞろぞろとついていた。それに全く動じず、ガキは俺に血が出ているからと自らのハンカチを出してきたのである。
おもしれえ。
俺は笑って、通り過ぎた。そのあと、側近にあのガキのことを聞いた。どうやら、親父が引き抜いたらしい。
あれは、俺のもんだ。あんなおもしれえガキ、逃したくはない。
ぐっちゃぐちゃにしてやって、ぼろ雑巾のように汚して捨ててやる。それでも俺にすがるのを、虫けらみたいに捨ててやるんだ。
あんな真っ白な美しい子供をそんな風に考えると声になって笑えた。すると側近がとても驚いていた。俺は滅多に笑わない。驚いているのは、自分もだ。
後に、あいつはうちの売り物であることを知った。あれを汚していいのは俺だけだ。怒りに震えたが、親父にはいくら俺でも、まだ逆らえない。
できる限りあいつを使わせないように仕事上動き始めたほどだった。
腹違いの弟があいつを犯したと聞いたのは。俺には、腹違いの弟が二人いる。片方は眼鏡をかけたがり勉だ。腹のうちが見えない薄気味悪い野郎。もう片方が可哀想でバカでクズな野郎。そのクズが俺のおもちゃに手を出しやがった。それも、まだ俺が手を着けていないのに、だ。
俺は急いでやつのもとへ行き、怒りの分だけ殴った。もっと殴ってやろうとしたとこであの眼鏡にとめられた。興醒めした俺はその足であいつのもとへ行き、数年ぶりに会った。あいつは、子供の頃と変わらぬ真っ白さであり、美しかった。
勝手に口角があがった。こいつはまだ汚れちゃいねぇ。そして、犯した。
何度も何度も俺を植えつけた。それでも、かいつは汚れを知らないようだった。たまらない。絶対ぐちゃぐちゃにしてやる。
仕事の合間を見つけてはあいつのことを犯した。次第に俺にも慣れてきたのか、甘えてくるようになった。征服欲が満たされていくのを感じた。しかし、もっともっと、と俺の欲望は止まらなかった。
早くこんな話し合い終わらせて、溜まってる仕事も片付けて、あいつをぶち犯してやりてぇ。
悶々と考えていると、やっと親父がやってきた。なんとなく、話の内容はわかってる。そろそろ代替えの次期だ。
俺が組長になったら、さっさとあいつを俺の別荘に移して、毎日犯してやる。俺を求めさせ、そしてぐずぐずになったところを捨ててやる。

「単刀直入に要件のみ伝える」

俺の右側から緊張がつたわってくる。俺のガキだ。俺はさっさとガキを女に産ませてやった。これで後継者はつくったし、俺が家庭なんか守るっつーめんどくせーことは終わり。ガキはほっといたら勝手にでかくなる。現にこいつらは俺の後継者になるためにすごしている。
まあ、そんなことはどうでもいい。

「今日は、先に伝えるべく、お前等だけを呼んだ」

幹部のやつらはひとりもいない。いるのは、俺のガキ二人と、眼鏡とクズ野郎だけだ。

「私はここを病んでしまった。そのため、長の座を退き、それを龍輝へと受け渡す」

わかっていたことだが、息をのむ緊張感が空間を包む。そして、親父は左胸を撫でながら、病んでしまったと言った。

「組のことも、この家のこともすべて龍輝に譲る」

ぐ、と握っていた手をより強くつかむ。
表情には一切ださないが、俺は心の中で大きく笑った。
これで、やっと、葵は俺のものになった。
じわじわ、と気持ちが満たされていく。

「私は、ここを去り、軽井沢の別荘へと移ることにした」

俺はやはり、別荘を新しく買うことにしようと思う。俺しか知らない場所に。山奥に。誰も来ない。俺と、葵だけの。

「そこには、うちにいる葵を連れて行くことにした」

その一言で、時間が止まった。
そして、目の前が赤くなり、勢いよく力の限り立ち上がった。それは俺だけではなく、ここにいた全員が同じであった。

「あれは私のものだ」

親父はそう言った。


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