ラブホに一泊したのは始めてだったと思う。バイト代は大体ラブホに投資するためのようなものだから、一泊くらいどうってことはない。
昨日、結局由貴くんが持たなくて気絶して俺らの一夜は終わった。
別れるときに、またねと囁けば由貴くんは顔を赤くしながら、くしゃりと笑った。
思い出したように携帯を開けばメールがあった。
それは一通だけ、雄哉から。
今日、こないの?
それだけでメールは何もない。いつぶりだろう。雄哉から連絡がきたのは。思わず乾いた笑いがでた。
来た道を戻る。
早朝の少しは綺麗な空気を吸い込む。ひどく気分がいい。
わざと音をたてて扉を開けた。嘘みたいに静かな室内。玄関にも傷んだ革靴だけ。その横に揃えて革靴を脱いだ。
「…樹海?」
俺の革靴も汚ね。
そんなことを思いながら声のする方に顔を向ければ、雄哉が立っていた。
「よっ」
「樹海…!」
いきなり百八十センチ以上の男に抱きつかれたら、倒れるわ。しかし、意地で踏張る。
「樹海、樹海樹海…」
何度も名前を呼んできて、首筋に擦り寄る。背中に手を回し、頭を撫でてやる。茶色に染められた髪の毛は昔ほど触り心地のいいもんじゃないが、これもこれでなかなか好き。
「あいたかった…樹海」
俺もだよ、と雄哉の耳たぶを唇ではむ。一週間ぶりの雄哉の匂いにやっぱり懐かしさを感じる。
「はやく、ベッドいこ」
甘噛みながら、吐息混じりに囁く。由貴くんに囁くのとは、ちょっと違う。
いつもならキスをして寝室に雪崩こむのに、今日の雄哉は違った。
「もう少し、このままでいさせて…」
さらに腕に力が入ったのがわかった。
珍しい。どうしちゃったの、雄哉くん。悪いものでも食べた?淋しかったの?どうしたの?
赤ちゃんをあやすように尋ねたかったけど、黙って雄哉に身体を預けた。
まるで恋人みたい。
やっぱり、人肌はおちつく。
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