雄哉には直接言おうと思っている。
…本音を言えば、逃げている。俺らの関係と面と向かってみることを。
テストが返却されて、大の苦手だった化学がいつもの倍の点数がとれて、先生にほめられてしまったことをすぐに雄哉に報告したくて、携帯を手にとり、電源をつけたがすぐに電源を消した。
ここ最近…というより、雄哉の部屋から自分の家に帰ったあの日から電話とメールを毎日よこすのだ。なぜ帰ってしまったのか、帰ってきてほしい、あいたい…など、最後に添えられているひとことに胸が締め付けられるのだ。その一言は、しきりに雄哉が囁いていたあのひとこと。だいすき、と。
そのひとこと、ひとことが、俺の心を乱した。嘘でも俺を求めている言葉たちに、めちゃくちゃに乱された。
そんなこと、すべてがめんどくさくて、逃げている。だから、携帯の電源を落としているのだ。向き合うのが嫌で。
返ってくるテストは雄哉に見てもらった教科はどれもよくて。唯一悪かったのは古典だった。その原因はわかっている。すべて一夜漬けのテストでこの教科だけ悪かったのは、前日の夜に雄哉とあんなことをしてしまったから。
テストが返ってくる。どんどん金曜日が迫ってくる。妙に焦燥感にかられていた。そんなとき、たまたま携帯をつけた際に電話がかかってきた。それはバイトでお世話になっている先輩のもので。内容は、金曜のシフトを代わってほしいというものであった。俺は喜んでそれを承諾した。
そして、今に至る。

「じゃあ…おやすみ」
「おやすみなさい」

にっこりと笑う竹井さんと名残惜しくも駅で別れる。竹井さんが改札をくぐり、見えなくなるまでその背中を見つめる。
今になって思うと、陸上部のマネージャーを受けたのは、雄哉から逃げたかったからだろう。
竹井さんと一緒にいるとき、竹井さんのことで頭はいっぱいになる。
にもかかわらず、というよりも、竹井さんだからこそなのか、ふとした瞬間に雄哉の影を強く感じてしまう。
だから、もしかしたら、竹井さんからも逃げたかったのかもしれない。

そんなことを少しでも思ってしまう自分は、やはり恋愛事に向いていないと実感すると共に、自分が嫌になる。こんな自分の何が良くて、二人はこんなにも俺に優しくしてくれるのか。その優しさが同時に俺をどれだけ苦しめているのか二人はわかっているのだろうか。
いや、わかってほしくない。きっと彼らを傷つけることになるだろうから。
…でも、これが俺の本当に嫌な部分である。つい、わかってもらいたいと望んでしまうのだ。わかってもらったうえで、抱きしめてもらいたい。

欲深い自分には、孤独がお似合いなのかもしれない。

どうやったら想いがつたわるのか、竹井さんはさっき言った。
俺も知りたいよ。




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