着替え終えてから、二人で店から出た。街頭がぽつんぽつんとあり、人通りが少ない道を二人並んで歩く。
本当は、店の最寄駅までの予定だった。
駅が近づいてくるにつれ、焦燥感が増していったときに竹井さんが、

「俺、最近運動不足だから、運動つきあってくれない?一駅分」

とにこやかに提案してくれて、思わず笑顔でうなづいてしまった。
竹井さんと俺の部屋の最寄駅へと歩いて向かう。
そんな俺を見て、竹井さんはくすりと柔らかく笑った。かわいい、とこっそり手をつながれた。
寄り添って、人に見えないように指を絡め、まだ寒い、三月初旬の夜道を二人で歩いた。街頭があるように、ぽつりぽつりと会話を交えながら。
隣に竹井さんがいるということだけで、手から伝わる体温で、かすかな竹井さんの匂いで、俺がどんどんと体の奥底から暖かくなってきて。安堵で体が包まれていた。気分がふわふわとしてくる。ついついスキップしたくなってくる。

バイト先は竹井さんのマンションの歩いて数分の場所にある。
だから、本当はあのまま一緒に竹井さんのマンションに行きたかった。
竹井さんもそれを最初は提案してくれた。素直にうれしかった。自分からは、まだそんなことをねだることはできなかったから。
ここにきて、佐々木の頼みごとをオッケーしてしまった自分を呪った。明日は部活が朝から夕方まであるのだ。それの手伝いに行かなければならない。ジャージやらクローゼットから引っ張り出してこなければならなかった。
…すごく残念だった。
それがあまりにも表情に出ていたのか、竹井さんが人目を盗んで頬にキスをしてきた。かわいいと言って。

「…やっぱり、電話と会うのじゃ、全然違うね」

世間話やくだらない話をしていたのに、いきなり竹井さんはそんなことを言い出す。

「こうやって、手もつなげるしね」

少しだけ強く手を握られた。
まだ、素直に言葉にはできなくて。答えるように握った手に力を入れた。

シフトを出しに来たというのは、口実だろう。多分…俺に会いに来てくれたんだと、思う…。

「俺、樹海くんに会うためなら、なんだって出来る気がする」

こんな言葉をすんなり信じてしまうのは、俺が変わったからか。竹井さんがすごいのか。

「竹井さんって、ホストみたい」
「褒め言葉?」
「恥ずかしいこと、ずっと言い続けてるから」

息がまだ白い。ふわりと飛んで、気付いたら闇に溶けてしまう。

「…言わないと、伝わらないから」

足が止まった竹井さんにつられ、半歩前にいるところで振り替える。

「どうしたら…想いって、伝わるんだろうね」

竹井さんの表情があまりにも切なくて。鼻の奥がつん、とした。



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