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二人でもうひと眠りして、起きた時にはもうお昼の時間だった。
インスタントのラーメンを小鍋で二人分つくり、美味しくいただいた。
後片付けをこなし、二人で並んでDVDを見た。見てる間に手をつないだり、指を絡めたり。そんなこと全てがむずがゆくて内容なんかちっとも覚えていない。
DVDが終わるとココアを飲みながら、ゆったりと竹井さんと話しをした。
そして、わかったことは竹井さんはブラコンだということだ。

「誕生日にくれたネクタイピン、大事な時に付けようと思ったら、普段も付けてって言われちゃってさー」

相槌をうちながら、ココアをすする。あまさとあたたかさと、それに穏やかな時間に頬が緩む。

「あ、ごめん…俺ばっかり…つまんないよね、こんな話」

自他共に認めるブラコンなんだって苦笑し、静かにマグカップに口をつけた竹井さんに緩んだ表情のまま顔を横に振った。

「そんなことないです。俺、弟っていたことないんで面白いです」

そう?と首をかしげ、不安そうに覗き込んでくきたので、にこやかに頷く。ほ、としたように竹井さんも笑った。

「今度、紹介するよ」

いいのだろうか。
なんと紹介するのだろうか。
そんな戸惑いの色を浮かべていると手を包まれた。

「恋人だって、紹介する」
「っ、……でも」

はっきり、そう言ってくれた竹井さんに嬉しさを感じられずにはいられなかった。恥ずかしさもあり、視線をそらしてしまう。

「そんなこと、弟さんに…」

いいのだろうか。
それだけ溺愛している弟さんに嫌われでもしたら。俺のせいで、竹井さんの何かが犠牲にはなってほしくない。失ってほしくはない。

「大丈夫、うちの弟、絶対喜ぶから」

こんな美人なお兄さんが増えて。そう言って抱き寄せられた。
本当に、いいのだろうか。
不安が拭い切れない。

「でも、もう少ししてからでも…」

口を開くとちゅ、と唇を吸われた。

「ごめん、舞い上がった」

眉を下げて笑う。
その笑顔に、なんだか申し訳なくなってしまい、つい口を開いた。

「嫌とかじゃなくて、その…今更ですけど、男同士ですし…」

お兄さんの恋人ですなんていって、ついていって弟さんに卒倒されては、もう俺はどうして良いのやら…。

「なんだ、そんなことか」

はは、と笑う竹井さんに、そんなことで済まされることなのだろうかと疑問に思うが、それはすぐ解決された。

「弟、男子校に通ってるからその辺の免疫あるから大丈夫だよ」

男子校って、どこもそうなのか…?

「気が向いたら、いつでも言って。すぐに呼び出すから」

ぎゅーっ、と抱きしめられて明るく言う。
意見をさりげなく尊重してくれた。そんなことに体がまたひとつ温かくなる。

「…でも、弟さんに会ったら、惚れちゃうかも」

冗談ひとつ言えるほど余裕ができたことに少し驚いたが、すぐに安堵した。だんだんと竹井さんに打ち解けていることが、嬉しくもなった。

「それはないよ?」

顔をあげると竹井さんはきょとんとした表情をしていた。

「だって、樹海くん、俺にメロメロじゃない?」

首をかしげて言いのける竹井さんに思わず赤面した。

「冗談くらいわかってくださいよ…っ!」

額を押し付け、俯く。
明るく笑ってから、背中を撫でてくる。

「俺の言ってること、冗談じゃないってよくわかったね」

…墓穴掘った。

「意地悪い…」

満足そうに頭上で竹井さんは笑っている。するすると背中を撫でる手がうなじを撫でて、ぴくりと身体が跳ねる。
うなじをゆったりと撫でた後、滑り落ちてくる様に頬に体温を感じ、顔を上げさせられた。
む、としたまま見つめ返すと両頬を包まれる。
竹井さんは爽やかに笑う。悔しいが、やはりかっこいいと思ってしまう。

「大好き」

どんどん竹井さん色に染められてしまう。
それもまた悔しい。
だめだ。好きだ。






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