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雄哉と一緒に起きて、俺は風呂に入った。ドライヤーで髪を乾かして、脱衣場を出ると雄哉はもう靴を履いていた。

「部活、頑張って」
「樹海もテスト、頑張って」

キスをして、いってらっしゃいと手を振った。ゆっくりとドアが閉まり、俺は少しぼう、としてから、朝飯を食すことにした。
お茶漬けでさらさらと米を流してから、身支度をし、部屋を出て鍵をしめる。
鍵をしめてから、この動作は何度も独り暮らしを始めてから行っているのに、なぜだか新鮮な気がした。



相変わらずうるさい佐々木をスルーしながら、もくもくと勉強し、テストをこなし、今日の学校は終了。

「樹海ー、ごはんでも行こうよ!」

ひょっこり現れた翔に声をかけられた。俺も!と声をあげる佐々木に嫌な顔をする。

「佐々木はやかましいから、だめーっ」
「いいじゃん!俺がいないと寂しいだろ?」
「あっちで、みんなでカラオケ行くっつってたよ」
「あ、そうか!じゃあな!」

わちゃわちゃとした輪に佐々木が飛び込んで行ったのを見送ってから、翔と目が合う。へにゃりと笑って、いこっか、と俺の手をひいた。



場所はついこの間来たファミレス。俺はパスタを頼み、翔はハンバーグセットを頼んでいた。

「んで、どうしたの?」

おしぼりで手をふく翔に話題をふる。

「樹海にイイ人が出来たって、本当?」

目を見開いてしまった。一体誰から…あ。

「由貴から聞いた」

にっこりと笑って、問い詰めてきた。このしつこさは女子並みだ。

「この前、樹海のこと迎えに来た人?」
「違うよ」
「えー…写メとかないの?」
「今、携帯もってないよ」
「なにそれ?樹海、本当に平成生まれ?」

ドリンクバーのおかわりに行くと言ってその場をあとにした。ふう、と一息つく。つかの間、隣に翔がオレンジジュースと鼻歌をきざみながら、やってきた。

「…なんで相手が男だと思ったの?」

我慢出来ずにオレンジジュースを啜る翔に軽く注意してから、尋ねてみた。

「だって、樹海とベッドを共にした仲ですから」

よく意味がわからずに、友達だから?ということにしておこう。

「樹海、かわいーもん」

席について、待っていましたと言わんばかりにストローで飲み干していく。

「俺はバリネコだと思ってたけど、樹海相手ならタチもいいかなって思えたし」
「えー?」

それって、不名誉なこと?もしかして。

「もう女の子じゃ満足出来ないでしょ?」

そんなことないと言えば、嘘になるかも。

「でも、ねこちゃん相手も満足出来ない」
「そんなことないよ、それは翔が一番わかるでしょ」

意味ありげに微笑みかけてみると頬を染め、ばかと言われた。

「まあ、言葉じゃ伝えきれないものなのかも」

もう一押ししようかと考えたところで頼んだ品がきてしまった。



「でも、樹海って、ひどい男だねー」

食後にコーヒーをすすっていると生クリームがたっぷりのったケーキをしあわせそうに頬張りながら、翔が言った。首をかしげるとため息をつかれた。大きく。

「樹海のオトモダチ、あれ、木ノ下雄哉でしょ?」

わお。なんでこんなに雄哉って有名なの?

「共男の友達、結構いるんだ。その友達といると必ず話にでてくる。共男イチのイケメンだって」
「へー…」
「聞いてた木ノ下くんと、樹海と一緒にいるときの木ノ下くん、退くほど真逆だった」

ふっは、と思わず笑ってしまった。怪訝な表情をする翔にごめんごめんと笑いながら伝える。

「退くほどって、どういうことよ?」
「いや、うーん、と…」

少し、翔は視線を泳がせ考えてから口を開いた。

「いっつも無表情で、むしろ怒ってるように見えるって聞いてたし、感情のない人形みたいだって」

それ、佐々木からも聞いたな、なんて思わず笑いそうになったのをコーヒーを飲み下すことで抑える。

「それが、樹海にはメロメロじゃん…なのに、彼じゃないんでしょ?付き合ってる人」
「メロメロって…あいつは友達だよ」

まあ、下の世話もし合う友達だけど。翔がため息をつく。

「…俺は彼が不憫で仕方ないよ。ちゃんと伝えるべきだよ?」

何を伝えるべきなのか、思いつきもしなくて、首をかしげると翔はコップにささっていたストローを俺に向けた。

「俺はお前のことは友達としか見てないって」





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