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「んで、聞きたいことってなに?」

ずるずるとラーメンをすすっている佐々木に聞く。

「忘れてた!そうだよ、それそれ!」

水を一気に飲み干して、佐々木は口元を拭いながら話だす。ワイルドねー。

「お前、木ノ下雄哉の何なの?マジで」

また、雄哉の話か。
ため息をひとつこぼす。

「何って、友達。…ていうか、佐々木こそあいつのことなんで知ってんの?」
「木ノ下雄哉っつったら、この辺で陸上やってるやつなら知らないやついないっつーの」

まあ、確かに中学のときの雄哉はすごかった。大会では必ずメダルを持っていたし、全国駅伝の代表に選ばれたこともあった。

「加えて、なんで木ノ下が佐藤にあんなに懐いてるのは何故?」
「懐いてるって…」
「だってあいつ、にこりともしねーんだぜ?いつもなら」

いっつも無表情なんだよ。むしろ怒ってるの?ってカンジ。と佐々木は言う。
雄哉が?

「それ、違う人じゃ…」
「いやいや、共男の木ノ下雄哉。あいつだよ。毎回、大会で顔あわせるし」
「毎回?」

中学の時だろうか?
しかし、俺は佐々木とは会ったことはない。

「今週も会うけど、絶対いつも通りの無表情だから」
「今週?佐々木、あいつと仲いいの?」
「個人的にじゃねーぞ?大会で、だよ」
「大会?なんの?」
「陸上の」

だんだんと形が見えてきて、勇気を出して、尋ねてみる。

「雄哉って、陸上部なの?」

佐々木はきょとんとしていた。

「そうだけど…」

知らなかった。

俺が驚いていると、佐々木は何がなんだかわからないという顔だった。そして、醤油なのにこってりしたスープを飲み干した。

「謎だな、お前ら…」

佐藤にしか懐かない木ノ下と、木ノ下が陸上部だってことを知らなかった佐藤。

「確かに…謎、だな…」

俺は残った麺を啜った。


店を出てから、また佐々木が飽きもせずべらべらと喋り続け、佐々木より先に電車を降りた。ありがとうと伝えてから。

とぼとぼと雄哉の部屋までの帰路を歩きながら、考えた。
じゃあ、雄哉が今日、朝早く出ていったのも、帰りが遅くなると言ったのも、部活だったからなのか。
安堵のため息をついた自分に今さらながら驚いた。

俺はもう、雄哉を信じるのも期待するのもとっくに辞めたはずなのに。

合鍵で現在の家に帰ってくる。そのまま、ソファーに横たわり、そばにあった携帯を握る。
雄哉に謝らないと。勝手に勘違いして、イライラして、八つ当たりしてしまった。きっと顔を見ては言えないから、電話がいいのに、生憎携帯は電池切れ。
充電しようと思っても身体が動かない。当然のように睡魔が襲ってくる。
今なら、俺も好きだよって、言えそうなのに。ああ、瞼が重い。

「雄哉……」





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