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現代社会、数学T、現代文、数学A、古典、世界史、保健。
今後のテスト予定とカバンに入れてきた教科書を広げる。

「明日は、現社と数Tね…」

食後に、と雄哉が入れてきてくれたドリンクバーの紅茶をストローですする。

「どっちも苦手じゃないから、自分で勝手にやるよ」

ストローをくわえながら、教科書をぺらぺらと流し読みしている雄哉に告げる。目線をあげ、くしゃりと困り顔で笑った。

「俺が出来るってとこ、見てほしいんだ」

迷惑?なんて聞かれたら断れなくなった。
それから、勉強会がスタートしてしまった。
ファミレスで、四人掛けの席で並んで座るのはさすがに恥ずかしいから、仕方なく向き合う形で座ったのに、教えるのはこっちの方がいいから、とかなんとか言ってこいつは隣にやってきた。別に狭くはないし、客も少ないから構わないとも思ったがやっぱり恥ずかしい。

「ここは、この公式で…」
「なあ、やっぱ、隣同士は気持ち悪くない?」

目を見開いた雄哉と視線がぶつかるとすごく悲しい表情をされた。

「樹海は、俺が樹海と並ぶの…気持ち悪いと思ってるの…?」

震える声に今すぐにでも泣き出しそうなこいつに焦りを感じて、なんとか弁解を試みる。

「いや、俺がじゃなくて、周りのみなさんが…」
「なんだ、樹海じゃないの?よかった」

へにゃり、とすぐ笑顔になった雄哉に複雑な気分になる。

「だから、俺じゃないけど、周りの人が…」
「周りの人なんて、関係ないよ」

雄哉の硬い声に驚いていると、ソファーの上にあった手を握られ、また悲しい顔で迫られた。

「樹海には、俺だけを見ててほしい…」

あ、そうですか…。
もう何を言っても無駄なんだろうなと早々に諦め、ペンを握った。


その後二、三時間ほど数学をこなし、ファミレスを出、帰路につく。一緒に改札を通り、電車にのる。駅を出るとスーパーが目に入った。

「スーパー行こう」

きっと冷蔵庫には何もないだろう。一応まだ何日かはお世話になる予定だし。飯くらいは俺が作ってやろう。というか、そのくらいしなくては。
雄哉はにっこりと笑って頷いた。こいつは確か出前かコンビニ弁当がインスタントかファミレスのはずだ。たまにはゆっくり和食でも食わせてやろう。

「ねえ、樹海」
「んー?」

ジャガイモを選別していると横から、大した買い物をするわけじゃないのにわざわざカートを持ってきた雄哉がちょっかいをかけてくる。

「カレー食べたい」

カレーなら明日のことも心配しなくてすむなあ、確かにいいかも。ジャガイモも安いし。
あとのことも考えながらカートに野菜やら魚やら肉やらをつめていく。
少し買いすぎたか、でも男二人ならちょうどいい、かな。
レジにて財布を取り出すとカードが先にトレーに置かれた。雄哉がにこにことこっちを見ている。

「俺が言い出したから、俺が払うよ」
「いいの。俺んちのものになるから」

レジのおばさんにカードを渡してしまう。さっきのファミレスも雄哉が払うといって聞かなかったが、バイトもしてない坊っちゃんに払わせるわけにはいかないと、なんとか割勘にさせた。雄哉は満足そうにカードを受け取り、カートを引っ張っていった。

二人でひとつずつビニール袋をぶら下げてすぐそこのマンションに向かう。さっきから隣で終始笑顔の雄哉が機嫌よく話かけてきた。

「ねえ、樹海」
「なに?」
「俺たち、新婚さんみたいだね」

はあ?と雄哉を見ると本当にしあわせそうににこにこしていて何も言えなかった。呆れて少し笑ってしまった。





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