ホームの階段を少し早めにかけ降りて、南口に大股で歩を進める。
早く、会いたい。
髪型気付いてくれるかな。
改札のすぐ外の柱に寄りかかっている竹井さんを見つけた。こちらからは横顔が見える。
どきん、と少し脈うつ心臓に緊張を感じる。
少し歩くスピードを落として、改札に向かう。深呼吸する。大丈夫。
「竹井さん」
周りにはそこそこ人がいるし、ざわめいている。名前をつぶやいてみる。竹井さんが動いたので、どきりとした。
手をあげようとしたとき、竹井さんは女の子二人に話かけられていることに気付いた。
このあたりには可愛いと有名な女子大が数個あると前、聞いたことがある。そのどれかの大学生であろう、まるでファッション雑誌から飛び出てきたような金髪と茶髪の、すらりとした足を惜し気もなく披露する女の子たちに竹井さんは、にこにこと対応していた。
「竹井さん…」
あげた手を所在なさげに、ゆるく握り締め、のろのろとおろす。つん、とどこが痛む。
「竹井さん」
少し声量を出す。
しかし、もちろん聞こえない。雑踏がやけに耳につく。
足が止まってしまった。
女の子たちは相変わらず竹井さんに話しかけている。なんだが、竹井さんも万更ではないように見える。
「竹井さん…」
まるで、世界には俺ひとりだけという孤独感に襲われた。
もう一度名前を呼ぶが、それは虚しく空気に消える。
女の子の一人が竹井さんの二の腕に絡みついた。それを見た瞬間踵を返した。
急いで今来た道を走る。ちょうど来た電車に滑り込む。肩が上下に揺れていた。
急いで竹井さん宛てに体調不良のために近くの友人宅でお世話になるとメールを打ち、携帯をポケットに突っ込んだ。
ぎゅ、と目をつむってうなだれる。バカだ。やっと前に進めると思ったのに。結局。
「意気地なし…」
情けない。
聞きなれたアナウンスが流れて、気付いたら降りていた。
電車が後ろで流れていく。
俺は通い慣れてしまったこの道を歩く。
駅から徒歩五分で目的地には着く。インターホンを押す。いるかわからなかったが、いてほしいと願った。
「樹、海…?」
開いたドアから、驚いた顔をした雄哉が出てきた。懐かしい顔に思わず頬がゆるんだ。
「なんつー顔してんだよ」
「樹海!」
「うわっ」
おもいっきり抱きよせられて、いつの間にか家内に入っていて後ろでドアの閉まる音が聞こえた。
ぎゅう、と痛いほど抱きしめられ、苦笑してしまう。
「樹海…樹海だ…本当に、樹海だ…」
首筋に顔をうめられ、吐息がかすめる。くすぐったくて、少し身を捩るが雄哉は離さない。
「会いたかったよ、本当に…会えなくて…俺……どうにかなるかと思った…」
バカかと軽く笑った。
いつものことなのに、なぜか妙に嬉しくて、身体に体温が戻ったように感じた。
すりすりと顔を押しつけてくる雄哉が可愛く思えて、脇の下からおもいっきり背中をホールドされていたから、首に腕を回す。すん、と雄哉の匂いがした。嗅ぎ慣れた、雄哉だけの匂い。
「雄哉に会えて、良かった」
本心だった。
本心を雄哉に伝えたのは、いつぶりだろうか。
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