トイレの個室に入り、壁と向き合う。ぼろぼろと勝手に雫が落ちる。
苦しくて苦しくて。
次第に嗚咽も顕著になってゆく。
何が苦しいのかわからない。何が辛いのかわからない。自分の感情がコントロール出来ない。というより、わからない。
自分がわからない。
「……雄哉…」
雄哉に会えば、こんな気持ちも流せる気がした。雄哉なら、俺を受け入れてくれるはずだ。拒みはしない。無駄なことも考えないですむ。
「……雄哉…雄哉…雄哉」
あいつの名前しか浮かんでこない。自分で自分を抱きしめながら、小さくしゃがむ。かたかたと震えが止まらない。
人肌がほしい。
落ち着ける場所がほしい。
抱きしめてほしい。
落ち着こうとゆっくり深呼吸をすると、ふいに携帯が震え出して、思わず電話に出てしまった。
『樹海くん?』
ぶわりとまた雫が現れる。口に手をあて、深呼吸を繰り返す。
『今、どの辺にいる?』
声が裏返りそうで、怖くて発声が出来ない。鼓膜を揺らす優しい声にまた涙腺がバカになる。
『早く会いたくて、駅まで来ちゃったんだ』
ひゅっ、と器官に空気が入ってむせてしまう。く、くるし…
『大丈夫?ほら、ひっ、ひっ、ふー。ひっ、ひっ、ふー』
思わず笑ってしまった。
「俺は妊婦じゃないです」
少し鼻声になってしまった。しかし、電話越しなら、きっと大丈夫。と思ったのに…。
『あれ?…もしかして、泣いてた?』
なんでこんな敏感なんだ。
盗聴器でもつけられたか。なんてくだらないことも思いついた。
「い、いえ…少し体調が悪くて…」
『そっ、か…ぶり返しは怖いから、気をつけてね』
「はい…」
じんわりと身体が暖まった気がした。
『で、どこにいるの?』
「あ、えっと…すみません、電車逃して…」
『え?さっき……ま、しょうがないね、病み上がりなんだから、無茶しないようにね』
返事をして、やっと立ち上がる。個室を出て、鏡をチェックすると目と鼻が真っ赤だった。
「今から乗るんで、すぐ着きます」
『了解。じゃ、南口で待ってるね?』
今度はちゃんと会話を終わらせてから電話を切った。ふ、と一息はいて、顔を洗う。こんなことで赤みがひくとは思ってはいないが、気持ちは引き締まった。
電車に揺られながら、小出水さんの言葉をふと思い出した。
伝えたら、少しは前向きになれるかな。
しかし、その考えはやはり、重いと思われそうで却下してしまう。全く前に進めないなと自嘲する。
泣いて、竹井さんの声を聞いたら、驚くほど心が穏やかになった。すっ、とひとつ着物を落としたような身軽さを感じた。
会ったら、なんて声をかけよう…
時間は正午を回っていた。
竹井さんは授業は四限からだと言っていた。なら、お昼、一緒に食べられるかな。出来たら、一緒に食べたい…。このくらいなら、誘っても平気だよな?
きっと、会って話をしたら、こんな思いも消え去る気がした。
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