顔をあげると由貴くんは目をきらきらさせながら、少し前のめりになっていた。

「彼氏さん、でも出来た?」

秘密と言おうとしたら、あてられてしまった。
動揺を隠すように視線をアイスカフェオレに戻す。ごまかすように、からからと音をたてる。

「なんで?」
「メール操作してるとき恋する乙女の顔してたもん」

恋する乙女って…
テーブルに肘をつき、その手で口を覆う。

「おめでとう」
「んー…ありがとう」

あまりにも由貴くんが素敵な笑顔なので答えてしまった。

「どんな人?」
「素敵な人だよ」
「同じ学校の人?」
「いや、バイト先の先輩」

大学生?と聞かれたから、そうだと答えて、どこの大学生?と聞かれたから、大学名を言ったら、いいなあときらきらした瞳で見つめられた。恥ずかしくて、俺には気まずかった。
そこにタイミングよくホットケーキが運ばれてきて、俺は胸をおろす。
たっぷりハニーシロップをかけて、小さく切ったホットケーキを由貴くんは幸せそうに頬張った。

「いいなあ…僕も、本命さん作りたいなあ…」

由貴くんは、端から見たらセックスなんて単語を知らないような純真無垢な少年に見えるが、本当は相当のヤリ手なのだと改めて思い出す。

「誰か良い人、いないの?」
「んー、僕は今の生活がすごく気に入っているから」

ぱくり、とまた一切れ食べて由貴くんは笑った。

「俺も、そうだったよ…」

そこそこ楽しかったし、楽だった。今は毎日、浮き沈みが激しすぎる。

「僕にも現れるといいな」

フォークをくわえながら、租借する由貴くんは少し寂しそうに見えた。

「由貴くんなら、絶対会えるよ」

そう告げると、ありがとうと照れくさそうに笑った。
「でも、もう樹海くんとはああいう遊び、出来なくなっちゃうのか…」

寂しいけど、嬉しいことでもあるの、かな?とか言って笑う。

「由貴くんは、俺と遊べなくて寂しい?」
「寂しいよ…僕、樹海くんのこと大好きだったし…でも、これからもこうやってお茶はしようね」

大好きっていうのは、体の相性が良かったということだろう。俺も由貴くんは上手いと思う。
しょんぼりとしていたかと思えば、ぱっと明るく笑顔になる可愛さについ甘やかしてしまいたくなってしまう。
手を伸ばし、そっと頭に手をやり、はらりと毛先を落とす。

「じゃあ、ラストに…これから、しとく?」

そんな気分では一切なかったが、俺との行為が好きだと遠回しに言ってくれたことが嬉しかったし、喜んでもらいたかった。純粋に。俺がセックスの相手をしただけでいいので喜んでもらえるならば。





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