「いかがでしょー?」

二つ折りの鏡でチェックをいれて、礼を述べるといい匂いのするワックスで髪をセットしてくれた。

「これから、会いにいくんでしょー?これだけイイ男ならだいじょーぶっ」

とんと背中を叩かれる。
にこにことする小出水さんに照れ臭いながらも、ちゃんと感謝を伝える。

「まー、まだ悩みは大きいだろうけど、だいじょーぶだよ。佐藤くんなら」

両手で頬を包まれる。ふわりと良い薫りがした。

「君は愛される人間だもん」

こつんと額をくっつけた。
俺が愛される人間…?

「ははっ、それはないですよ」

乾いた笑い声がもれ、せっかくの気分も落ちていきかけたとき、包んでいた手に力が入り、頬がつぶれる。

「言ったでしょー?俺はいろーんなことに敏感なの」

今はわからないかもしんないけど、と付け足してにこりと笑う。
変わってるな、とくすりと笑えてしまう。

「あ、切ってもらったので…」

財布を出すと笑われた。

「高校生なんだから気使わないでよー!」
「いやいや、プロに切ってもらったんですし…」
「そーゆー生真面目なとこ、好きだなー。あ、じゃ今度お店に来て!それが俺へのお礼ね」

最初の常連さんゲットーとけらけら笑っていた。つかめない人だ。でも、嫌いじゃない。

「お店、どこなんですか?」
「あのカラオケの目の前だよ」
「えっ!」

確かにバイト先の目の前には美容院がある。気になってはいたがなかなか機会がなく、見るだけだった。

「じゃあ……」
「ん?」
「…いや、なんでもないです…」

べらべら喋ってしまったが、それは俺が判断したのだ。この人のせいではない。

「いつでも相談乗ってあげるからねー」

ぽんぽんと肩を叩かれ、頬がゆるむ。礼をつげて、部屋を出た。
頬を撫でる風に春の匂いを感じた。





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