「樹海、ごめんね」
え?なにが?
「俺ね、本気で好きな人が出来たんだ」
「……へ、へー」
「だから……俺たち…終わりにしよう…」
ずきんと大きく傷んだ心に驚いた。
「…そ、そっか…そうだな…雄哉が言うなら、しょうがないよな…」
ぎゅ、とずきんずきんと痛みを増す心臓のあたりを握る。
まさか、雄哉に捨てられる日が来るとは。
雄哉はいつも隣にいるもんだと思っていた。たった数年しか一緒にいなかったのに。
「樹海」
その声に呼ばれて、顔をあげると雄哉の隣には綾文と名乗ったあの子がいた。
「樹海くん」
俺の名前を綾ちゃんが唱える。しかしそれは、嫌悪感しか得られなかった。
「好きだったよ、本当に」
ゆう、や……
「じゃあね、バイバイ」
そう言って、綾ちゃんは雄哉の腕にくっついて向こうへ歩いてゆく。
「雄哉……雄哉」
名前を呼ぶと必ず俺だけに微笑んでくれた雄哉は、俺じゃない、違う子に笑いかけている。
悲しい。つらい。
雄哉…雄哉…!
ハッと目が覚める。
鳥のさえずりが聞こえる。
「夢…?」
我ながら面白い夢を見た。
身体を起こすと、ぽたりと雫が落ちた。ああ、泣いてる。
まだ心臓が痛い。雄哉は、自分で思っているよりも、存在感が大きくなりすぎたようだ。
「たかが…」
セフレなのに。
目元を拭い、もう一度横になる。まだ、菌が体内を犯しているのだ。
「だからだ…」
そう、それが原因なのだ。でなければ、ありえない。そうだ。絶対、そう。
思考を遮るようにドアが開いた。目をやると竹井さんだ。
「おはよう、体調はどう?」
「おはようございます…」
竹井さんに抱きしめてもらっていたのに、違う男の夢を見ただなんて。
笑えてくる。
「なに、笑ってんの?」
「いや、なんでもないですよ」
竹井さん、ごめんなさい。
懺悔の気持ちでいっぱいだった。
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