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暗い部屋のソファーの隣に立ち、月明かりに照らされながら、雄哉に電話をした。ワンコール鳴り終わる前に声が聞こえた。

『バイト、おつかれ』

嘘をついたことに少し罪悪感を感じなくもないが、相手は雄哉だ。気にする必要はない。

「ごめん、今日…行けなくなった…」
『……なんで』

いつもより確実に低い雄哉の声に一瞬、つまる。

「いや、思ったより体調悪くてさ…」
『だったら、俺が行くよ』
「…雄哉、うち、知らないだろ?」

しばらく無言の状態になる。そう、俺らの関係はその程度なのだ。

『行くから、教えて』
「俺んち、わかりにくいとこにあるから、無理だよ」
『いいよ、どこだって。樹海がいるなら、行ける。絶対にたどり着く』

何その自信。なんだか笑えてくる。

「ごめん、俺そろそろ寝たい…来週は必ず、そっち行くから」
『…なんで、樹海は教えてくれないの?』
「今日の雄哉、変。しつこい」

ため息をつく。こんなワガママな雄哉、初めてかもしれない。めんどくさい。

『…ごめん、樹海、ごめんなさい樹海のこと心配で余裕なかった。前も必ず来週行くって言って来なかったから…俺、不安で…ごめんなさい。俺のこと嫌いにならないで。捨てないで。ごめんなさい。ごめんなさい。嫌いならないで…捨てないで…』

お願い…と受話器の向こうの相手に驚く。声が震えている。急に自分が悪いことをした気分になる。

「…俺も約束破ってばっかで、ごめん」

そうだ。俺の方が悪いんだ。雄哉は俺のことを待っていてくれたんだ。

「来週は、行くから」
『うん、うん…俺、待ってるから…嫌いにならないで、捨てないで…』
「はは、何言ってんの」
『…俺のこと、好き?』

好き。その単語が今日は妙に引っ掛かってしまう。明らかにこの前とは違う。

『…き、み?』
「あ?ああ…好きだよ…」

そうだ。雄哉だ。俺が今、話しをしているのは、雄哉だ。
こいつの好きは、ただの戯れだ。
一気にさめる。
なんでこいつは、俺を待っているんだ?
相手が山ほどいるのに。
馬鹿馬鹿しい。

『樹海、』
「じゃあ、おやすみ」

何か話そうとしていたが、それを遮って通話を終わらせる。たんたんと履歴を全消去した。あいつのもとのデータはもちろん消えてはいないが、不快なものをひとつ消えた。
電源を落としソファーに放り、寝室へ向かった。

あいつの戯れにも、飽きてきたな。





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bkm