食器を片付ける音と適当なテレビ番組がほどよい雰囲気をつくり、ソファーに横になり、うとうとと瞼が重くなるのに逆らう。…これ、デジャヴ?
「もう夕方か…おやつがごはんになっちったね」
さらりと前髪に触れられて、目線をあげると背もたれの上にいる竹井さんと目が合った。
「お腹空いた?」
「さっき、食べたばっかりですよ」
ふっ、と自然と頬が綻ぶ。そうだねと竹井さんも笑う。
「こんなとこで寝たら、ぶり返すよ?」
「でも、ここ、居心地よくて…」
このソファーが居心地良い。事実だけどそれに加えて、竹井さんが近くにいるということが何より暖かい気持ちになれるということは素直には、まだ認められなかった。
「樹海くんって、猫みたい」
「にゃあ」
手を招き猫のように丸めてみせる。ツッコミ待ちだったんだけど、ちゅ、と頬に柔らかいものがあたった。視線をやると竹井さんが間近にいて、唇が重なる。
「俺、可愛い猫、大好き」
かっと顔があつくなる。まさかこんなことになるとは。数秒前の自分を殴りたい。
「竹井さんって、変態?」
「むしろ、紳士。ジェントルマン」
「じゃあ、ただの猫好き?」
「確かに猫は好きだよ」
いつの間にか隣に腰掛け、でも、といいながら、俺は腕を引っ張っられ身体を起こし、起きた勢いのまま身体を受け止められた。
「樹海くんが好きだよ」
うるさい鼓動を誤魔化すように軽く咳をした。そして、わかるかわからないかくらいの力で竹井さんの服を握った。
「…風邪、うつっちゃいますよ」
うつってもいいよ。だから、もう一度、キスさせて。
そう告げられて、妙に緊張してしまい、指先が痺れているよう感じた。
竹井さんのセリフが、吐息が、唇が、服越しの体温が、少し早い鼓動音が、すべてが、俺の心臓を、心を掴んで離さなかった。
唇が触れた瞬間に、好きですと唱えた。もちろんそれは竹井さんに聞こえるわけもない。
prev next