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「え、今…」

力強く肩をつかまる。はっと我に返って自分の言ったことを振り返って、とたんに恥ずかしくなる。

「あ、え、いや、その」

あまりにもその瞳がまっすぐで俯いてしまう。やっぱり俺は間違っていたのか、気持ち悪いのだろうか。

「な、んでもないです…忘れてください…」

ちらりと見た竹井さんはすごく悲しそうな顔で。心が痛むのと同時に期待してしまう。信じてもいいのだろうか、竹井さんを。
ぐるぐると黒いもやみたいなものが心を覆い被せようとしてきたとき、ぐっと力強く抱きしめられた。

「忘れない」

くっと息が詰まった。伝わってくる竹井さんの体温があつい。それは多分俺があついからだと思うけど、それでも、あつい。

「忘れない、忘れないよ。だって、俺…」

肩に竹井さんが吐き出した息を感じる。あつい。あつい。

「…すげー、嬉しいから」

じんわりと目があつくなる。熱が離れていくのにあわせて、顔をあげると頬がやや赤い竹井さんのゆらめく瞳に捕まった。

「樹海くん…」

ただ名前を呼ばれただけなのに、心臓が捕まれたように苦しい。
いけないと思った。このままだと、もう後には戻れないとわかった。
けど、俺は動けなかった。

むしろ望んでいたのかもしれない。竹井さんとの未来を。自分が変わる良い機会なのかもしれないと。



「好きだよ」

ほろりと右頬を涙が伝った。今度は包み込むように抱きしめられる。
より近くで、鼓膜から脳にじんわりと染み渡る心地良い声を感じる。

「好きだ…好きだよ」

竹井さんの肩に顔をまかせ、背中に手を回した。

きっと、これが正解なのだと。




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