気づいたとき、すでに竹井さんに抱きしめられていた。
やばい。
「竹井さ…あの、はな…」
ぎゅっと力が入る。
やばい。やばい。
どくんどくんと早い鼓動を隠すように、やばいと繰り返す。
「あの、竹井さん」
やばい、流される。
俺を、見失う。
「離してください!」
ぐっと竹井さんの胸板を押す。やっと離れた竹井さんはなぜか泣きそうな顔をしていた。
なんで?ひとり、罪悪感にかられた。
「な、んで…」
「なんで」
俺の言葉を遮るように竹井さんは話し始めた。
「なんで、樹海くんは…そんなに、人と距離をとる?」
また竹井さんはわけのわからないことを言う。
「俺は、信用出来ない?」
「え?」
あまりにも、悲しい、寂しそうな顔をするから。黙り込んでしまった。
竹井さんのことだけを信用できないわけじゃない。俺だって、信用したいと思えてきた。
だけど、俺は人が信用出来ないんだ。
「……ごめん、でしゃばりすぎた…」
するりと竹井さんは離れていった。そして、ベッドに肘をつき、その手を額に当ててうなだれた。
「樹海くんが、頼ってくれたようで、一人で勘違いして、浮かれてた…」
自嘲気味に竹井さんは続けた。
「彼氏でもないのにね…」
ずきりとひどく胸が痛んだ。竹井さんの声は、震えていた。
震えるため息を吐き出した竹井さんは、ごめんと言って立ち上がった。
いけない。
わかっていたけど、ベッドから抜け出し、その手を握り止めてしまった。
「違う…違うんです…」
色んな感情がごちゃまぜになって、頭と身体が違う感情で動いていて。自分でも何がなんだかわかってないんだ。自分がわかってないんだから、他人がわかってないのは当たり前なんだ。
「俺…竹井さんが傍にいてくれて、本当に…嬉しかったです…」
心の隅で思ってしまった。
「……好き…かも、しれないです…」
竹井さんなら大丈夫だって。
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