「じゃ、ちゃっちゃと着替えて、まず体温、計ってね。そしたら冷えぴた貼って待ってて」
そそくさと消えた竹井さんを見送り、脇にあるスウェットに手を伸ばす。とりあえず、上半身は軽く着替えられた。が、カチャカチャとベルトを外そうと心見たが下を向くとさらに気だるくなってしまい、断念してしまった。その間も身体はどこかふわふわしている。
「着替えた?」
ひょっこりと顔を出している竹井さんを手招きする。
どうしたの?と近くにきた竹井さんが小首をかしげる。
「下が脱げないんです…脱がして、ください」
瞼がやけに重い。竹井さんはというと動きが止まってしまった。
「竹井さん?」
「え!ああ!ごめんごめん!んー、でもしょうがないよね…身体の調子悪いんだし…そうそう…」
ひとりでなにやらぶつぶつと繰り返す竹井さんの顔はやけに赤い。多分、いつもの俺なら誘ってたとこだけど、そこまで頭が回らなかった。
「んじゃ、失敬するよ」
そっと手を伸ばして、かちゃりかちゃりとベルトをいじる。俺は下を向くと気持ち悪くなるから、ベルトに向かう竹井さんを見つめた。
「…あんま、見ないで…余計、緊張する…」
ちらりと視線だけをこっちに向けて竹井さんは小さくいった。なんだか子供のようで、俺はつい頭を撫でてあげた。
「よしよし」
「…なんか樹海くんって、わけわかんないとき多いよね」
「そうかな?」
やっとベルトが外されて、任務完了と言わんばかりに竹井さんが立ち去ろうとするのをまた止める。
「…脱がしてくださいよ」
「え!?これ以上はちょっと…まずいよ…俺が…」
「着替えろって言ったの、竹井さんでしょ?」
「そうだけど…うん、そうだよな…しょうがないよな…だって、風邪ひいてるんだし…」
相変わらず竹井さんの言ってることが理解できない。頭は回らないし、言ってることわかんないし、もう疲れた。ため息をはくと竹井さんがやりますやりますやらせてくださいと意を決したように、ジーパンに手をつけた。そんな竹井さんはひっきりなしに深呼吸を繰り返している。
「…じゃあ、いくよ?」
「どうぞ」
脱がされるのは慣れている。だから、なんでこんなに竹井さんが緊張してるのかが余計わからなかった。
ジーパンのボタンを外し、チャックをおろす音が聞こえた。そこからまた無音になる。
「…やっぱダメ!」
これ以上は無理と竹井さんは背中を向けてしまった。
意味がわからん。
イライラする気力もないし、もはやどうでもいい。
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