22


自宅に着いた時には、身体が重かった。寒気もした。
一人暮らしの静けさが嫌で、テレビは常についている。寝る時もそれは同じ。部屋を出ても入ってきても、同じ。
やかましいバラエティー番組がやってるのを横目にベッドに倒れこんだ。そのまま眠りについた。
次に目がさめたときには、汗でびっしょりな自分に驚いた。気持ち悪くてしようがなかったが、起き上がる力もなく、ただただつまらないテレビを眺めながら、次の眠気を待つ。遠くで携帯の振動音が聞こえるが、起き上がる気力もないのだから、もちろん無視だ。

頭がガンガンする。横になっているのにぐらぐらする。辛うじて枕元にあったミネラルウォーターをちょいちょい飲んではいたが、それも底をつき、喉が乾いた。
うとうとしているのか、熱に犯されているのか、わからない。むしろ、現実なのか夢なのかもはっきりしない。
ぼんやりと視界が徐々にかすんで行く中、誰かが部屋に入ってきた音がする気がした。

「…き…っき…み…!」

名前を呼ばれているな、と他人事のように思っていると身体を揺すられ嫌でも意識が戻る。

「樹海くん、樹海くん!」
「ん…あ、気持ち…わる、い…」

久しぶりに聞いた自分の声はガラガラだった。そこにも驚いたが、一番は、目の前にいたのが、竹井さんだったことだ。


どうやら風邪をひいていたらしい。
もともと身体が弱かった俺は、小学生のときまでよく風邪をこじらせていた。肺炎にもなったことはある。それが中学に入って陸上を初めてからだんだんと体力をつけ、身体も丈夫になっていき、風邪なんかひかなくなった。まあ、陸上から離れてもう一年だからな。陸上やってたとしても寒空の下で居眠りこいてたら、そりゃ風邪ひくわな。

「樹海くんっ!」

荒々しくドアが開くとさっきまで室内でうろうろしていた竹井さんが髪を振り乱して大きなビニール袋を持ってやってきた。どうやら俺が考えにふけっている間に買い出しに行ったようだ。

「なんで着替えてないの!着替えなさいって言ったでしょ!」
「身体がだるすぎて、動けないんですよ…」

確かに着替えろとスウェットを枕元におかれた記憶はなくもない。

「わがまま言ってないで早く着替え!それから熱測って!」

はい!とビニール袋から箱を渡された。真新しい体温計だった。

「樹海くん、食べ物のアレルギーとかある?」
「特にないですけど…」
「了解。じゃあ、早く着替えて、えーと…これとこれとこれと…」

ビニールをがさがさ言わせながら、マスクやら冷えぴたやら薬やらを近くにあった折り畳み式机をもってきて並べた。

「はい、よろしくね」
「あ、ちょっと…」

物だけ残して立ち去ろうとした竹井さんの服の裾を辛うじて引っ張る。

「本当にだるくて、起き上がれないんです…だから、その…」

くすりと笑って、竹井さんは手を貸してくれた。枕と首の隙間に腕枕のように腕をいれ、肩をつかみ、そっと抱き起こしてくれた。
ふわりと汗の匂いがした。汗の匂いなのに嫌悪感が全く起きない爽やかなものだった。

「大丈夫ですか、お姫さま」

床に膝をつき、見上げてくる微笑んだ竹井さんはかっこよかった。本当に王子様みたいだった。





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bkm