「あっ…!…ゆ、雄哉くん!」
雄哉に続いて外に出ると外気の寒さに少し硬直してから、声の主をみる。彼は昨晩のお相手さま。んーと、綾ちゃん…あってる?あってるよね、多分。
「あっ…!」
「んー?おはよう、綾ちゃん」
目があった瞬間に綾ちゃんは顔を赤くした。その初々しさ、またいじめたくなっちゃうなあ。
「え…樹海、知り合いなの?」
隣に雄哉がいるのをすっかり忘れてた。にやりと笑ってから、友達だと告げた。
「で、何の用?」
「えっと…その、き…樹海くんに、用が…」
「樹海に?」
こんな冷たい雄哉の声は初めて聞いた。さっきまでの暖かい部屋での優しい雄哉は嘘かのようだ。
「雄哉」
袖を引っ張ると雄哉は少し困った顔でこっちを見た。それを安心させるかのように笑顔を見せる。
「雄哉は学校行きなよ。時間、間に合わなくなるよ」
「でも…」
「俺は綾ちゃんに用があるから」
また来週、来るから。
そう告げると約束だからな、と返された。いってらっしゃいと手をふると不安そうにちらちら振り返りながら雄哉は歩いていった。
「さて、と…」
振り返って、綾ちゃんを見やると目があった瞬間に目線を外された。
「まあ、立ち話もなんだし…」
さっき閉めたばかりの雄哉の部屋に入った。部屋はまだ暖かい。
今回はソファーの上に座るけど、綾ちゃんは靴を脱いでつっ立ったまんま、こっちに来ない。制服の上にコートを着て、マフラーを巻いて防寒ばっちり。着膨れしているその姿に、昨夜のラインの細さを思い出してしまった。
「それで、なんの用?」
「雄哉くんとは、どういう関係なの?」
「んー?雄哉?友達」
「ただの友達に、部屋の合鍵渡す?」
「ただの友達には渡さないなら、親友だからかな。付き合い長いし…」
腑に落ちないという顔をしていたが、沈黙が嫌で話を続ける。
「用って、それだけ?電話してくれればいいのに…」
「…その……」
綾ちゃんは口をつぐんでしまった。早く自宅に帰りたいのもあって、話そうとすると割り込まれてしまう。それでも、もじもじと何かを躊躇っていた。
「き、昨日のことは…雄哉くんには、言わないで…ほしいん、だ…」
意外な言葉にきょとんとしてしまっていると綾ちゃんはソファーまで詰め寄ってきて話し続けた。
「絶対に言わないで。僕、雄哉くんだけには、知られたくないんだ…雄哉くんだけには…だから、お願い…なんでもするから」
「なんで?」
「え…?」
少し強い口調になってしまったかもしれない、と発したあとに後悔した。綾ちゃんは止まってしまった。
そっと手をひいて、隣に座らせた。
「なんで雄哉には言っちゃだめなの?」
「…だって…」
出来るだけ優しい口調を意識して、子供に尋ねるように。
「だって?」
「………好き、だから…」
はらりと一粒、雫が綾ちゃんの頬を滑った。
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