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雄哉の家につくと風呂に入れられた。なんだか雄哉とは少しも離れたくなかったが、一緒に入るとセックスをしなければならない気がして一人で入った。別にセックスが嫌なわけじゃない。むしろオーライだけど、今はそんな気分にはなれなかった。バスタブに張られたお湯には入浴剤まで入っていて、雄哉の優しさが全面に出ていた。

雄哉は優しいんだ。
優しいというのはすごく抽象的な表現だけど。

風呂を出るとピラフとかき玉汁、それにココアが用意されていた。ピラフは冷凍だけど、と付け加えて食事を進めてくる雄哉がすごくかっこよく見えた。いや、見た目はもとからすごいカッコいいよ。
テレビの前にある机に二人分の食事をおいて、ソファーを背もたれにカーペットの上にクッションをおいていつものように並んで食べる。
わざわざ雄哉も食事をとっているのは、腹が減っているからではないと思う。もちろん聞けばそう答えるし、本当にそうかもしれない。でも、俺が他人に食事している姿を見つめられることが気恥ずかしくて嫌うということを述べてから、必ず並んで一緒に食べてくれる。俺に気づかれないように。だから俺も気付いているけど、気付いていないふりをする。

雄哉は勉強もスポーツも得意だったが、美術と家庭科のセンスは皆無だった。
それでもかき玉汁に関しては得意だった。俺が学校の授業で習ったものをごくたまに一緒に作ることがあったり、これがその第一段だった。
多分、雄哉は決められたことが嫌いなんだ。かといって、真っさらな紙を渡されて自由に表現することも出来ない。
他人に興味がない俺でも二年以上一緒にいる雄哉に関してはだんだんとわかってきた。
木ノ下雄哉とはそういうやつなんだ。

「おいしい…」

染み渡る暖かいかき玉汁。俺の好物だ。
心からこぼれた一言に自分でも驚いた。

「…嬉しい」

隣から聞こえた優しい声色につられて顔を向けると雄哉が朗らかに笑っていた。また少し身体が暖まった気がした。


飯を食べ終えて冷めた残りのココアをすすりながら、テレビを眺める。
雄哉の肩に凭れかかると、頭に雄哉が凭れかかってきて、腕を回し頭を撫でてくれる。そのテンポも心地よくて瞼が重くなる。

「樹海」
「…ん?」

柔らかい声が鼓膜を揺らす。

「なにがあったの?」

少し間をおいてから、口を動かす。もう頭が回らない。

「別に何もないよ」
「そっか…」

またテレビからはなんだかわからない洋画が流れ、二人の呼吸音が聞こえる。

「でも、俺は…樹海が頼ってくれて、嬉しかった」

いつでも呼んでいいから。

雄哉の言葉だけが、最後に頭にしみ込んで久しぶりにこんなにも満たされた気持ちで眠りについた。





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