15


「樹海!」

大声で名前を呼ばれて、目を覚ます。

「良かった…生きてた」

夜の寒さに奪われた熱が少し和らぐ。頭が次第に回り初めて今の状況を整理し出す。

「雄哉…」

ぼんやりとだけど、目線の先の方に暗闇に紛れて光るバイクがあった。そうだ、雄哉から電話があって、迎えにきてもらったんだ。
身体を離し、瞳を見つめながら、頬を暖かい大きな手の平で撫でられるとその心地よさに驚いた。

「雄哉…あったかい」
「樹海は冷たくなってる…いつからここにいたの?」

雄哉のジャケットのチャックを下げて、ジャケットの下で腰に腕を巻き付け再びくっつく。ああ、暖かい。

「暖かい…」

今だけは雄哉とひとつになりたい。性的な意味じゃなくてね。
なんだか雄哉はいくつか質問してきていたようだが、全部流した。耳に入ってこなかった。雄哉のぬくもりの心地よさにただただしあわせを感じていた。
あまりの心地よさに微睡みかけていると雄哉から帰ろうと提案され、名残惜しくも解放してあげると頬にそっとキスされた。ベンチから立ち上がると腰の痛みに驚きつつも、雄哉の手を離せなかった。手を握りしめあいながら、放られたままだったヘルメットを回収してバイクのもとへと歩いた。たった百メートルくらいだったのに、俺には長く感じた。雄哉と手をつないで歩いた初めての百メートルだった。
ヘルメットを渡され装着していると、雄哉の着ていたジャケットを着させられた。

「これじゃ雄哉が寒いじゃん」
「俺は大丈夫だから、樹海が着てて」

俺は後ろに乗るわけだし、雄哉が風避けになってくれるけど…と渋ると、いいからとエンジンをふかせ始めた。そんな雄哉の優しさに心が暖かくなる反面、奥底で痛んだ。
後ろで跨がり、雄哉の身体にしがみつくように抱きつく。
少し早い鼓動音はエンジンの音にすぐかき消された。





prev next

bkm