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「お待たせ〜」

手をふって近づいてくる竹井さんに自らも近づく。そして隣並んで夜道を歩いた。二、三分歩いたらすでに部屋の前だった。

「もっと早く連絡してくれれば、スウィートルームばりに綺麗にしたのにな〜」
「…おじゃまします」

そんなこと言いつつも、竹井さんの部屋はきちんとしていた。男の一人暮らしとは思えない。

「竹井さんって、A型?」
「ううん、O型」

キッチンでがさごそと動きながら声だけが戻ってくる。
…俺、血液型占いはもう信じないことにしよう。

「じゃあ、潔癖?」
「そんなことないと思うけど…」

おぼんにマグカップやらコースターやらを持って帰ってきた。コースターって…やっぱり潔癖だな。

「それより、急にどうした?」

コーヒーに砂糖とミルクをたっぷり入れてがしがしスプーンを回す。

「…竹井さんこそ、いきなり電話だなんてどうしたんですか?」

そんなでろでろに甘そうなコーヒーを竹井さんは一口飲んだのを見て、俺もマグカップに口をつけた。

「んー?…星が綺麗だったから、教えてあげようと思って」

湯気を放つ液体が唇に触れる前にそんなことを竹井さんが言い出した。

「そんなこと?」
「むっ、そんなことなんかじゃないぞ!好きな子に見せたいほど綺麗だったんだぞ!」

ぎくりと身体が止まった。その一言に。

「…ねえ、竹井さん」

まだ飲んでいないコーヒーをテーブルの上に置いて、揺れる黒の水面を見つめる。少し呼吸をして、今度はまっすぐ竹井さんを見つめる。
どうした?と首をかしげる竹井さんは悔しいほどカッコいい。

「俺のこと、抱きたい?」
「えっ、抱きたい」
「そっか…じゃぁ…」

竹井さんの隣に移動して、肩に手をおいて、やんわりとキスをした。

「…しよ」

もう一度唇をはむ様にキスをする。ちゅ、ちゅ、と可愛いリップ音に気分が乗ってくる。そっと押し倒して、腹の上に跨がるようにしてキスを続ける。
ひとつ、ふたつ。竹井さんのシャツのボタンを外しにかかる。三つ目がはだけたときに、竹井さんは急に抱きしめられてキスは終わった。

「…樹海くんは、俺のこと…どう想ってるの?」

どう?
どうって…

「バイト先のカッコいい先輩」

しばらくして聞こえたのは、盛大なため息。
よっ、と竹井さんは俺を抱き締めたまま起き上がった。必然的に俺は竹井さんの膝のうえに座る。

「それじゃ、俺は…抱けないよ」
「じゃあ、俺が抱いてあげましょうか?」

やっと腕がゆるんで顔を覗くとおでこを軽く叩かれた。

「こういうことは、好きな人としかやっちゃだめだよ、樹海ちゃん」

別に竹井さんのことは嫌いじゃないし、むしろ好きだ。めんどくさいときもあるけど。

「多分、樹海くんの好きと俺の好きは違うよ」

違う?
好きは好きだろ?

「…じゃあ、竹井さんの好きって、なんですか?」
「俺のは…」

珍しく頬が少し赤くなり、目線を外す竹井さんも絵になった。
こんな竹井さん、見たことなかった。なんだかこっちも照れる。

「俺のは、その…樹海くんを…愛してるってこと」

愛してる?
好きと違うの?

「それって、好きってことでしょ?俺も竹井さん好きですよ?」
「愛してる?」
「愛してますよ」

だから、と首筋に唇をあてがう。そしたら、肩を捕まれた。

「ほら!やっぱり違う!」

噛み合わない会話や据え膳な気分でだんだんとイライラしてくる。

「…だから何が違うんですか?」

もう好きとか愛してるとかどうでもいいよ。
感情なんて、めんどくさいだけだ。

「…もしかして、樹海くんは…恋したこと、ないの?」

ああ、めんどくさい。





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