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連絡先と一言を添えたメモをベッドヘッドに置いて、寝てる綾ちゃんにキスをして部屋を出た。

時間は日付を跨ごうとしていた。携帯を開けば、5件の着信。8件のメール。
メールは全部雄哉だった。今日来ないの?待ってる。いつ来る?まだ来ないの?早く来て。何してんの?早く来いよ。会いたい、樹海…。こんな切羽詰まった雄哉のメールは初めてだった。
今度は着信履歴を見ると雄哉からだった。その合間に一件だけ違う人物がいた。
一瞬目を見開いてから、気付いたら電話をかけていた。

『もしもし』
「も、し…もし…」

声を聞いてからだんだんと冷静になっていった。
何を話せばいいかわからない。

「あの…竹井さんの携帯ですか?」
『あはっ、それがわかってて電話したんじゃないの?』

いつもと変わらない陽気な竹井さんだった。
急に身体がざわめきだす。ずくり、と奥底から。

「た、けいさん…」
『ん?』
「今から、竹井さんちに行ってもいいですか?」

もう止まらない気がした。

『いいけど、電車ある?』
「今、竹井さんの大学の近くにいるんで…」

確か竹井さんは大学近くの学生マンションに一人暮らしだったはず。どこ?と言われて目についたクリーニング屋を告げる。

『じゃあ、待ってて』
「あ…はい」

ぎこちなく返すと受話器からくすりと笑い声が聞こえた。

『すぐ行くから』
「あ、はい」

また後でね、と携帯をたたむ。
竹井さんが来る前に雄哉にメールを送った。

今日は帰る。またね。

雄哉からの返信よりも先に竹井さんが俺の下に来た。

外気は冷たいのに、身体は暖かい。
熱は溶けずにさまよっていた。





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bkm