10


それからの竹井さんはいつも通りだった。特に何かが違うわけでもなく、まるで何もなかったかのように。何日経とうが、それはかわらなかった。唇にはあの感触だけが残っていた。何度他人とキスをしても。


もう一週間がたち、金曜日だった。金曜日には雄哉に会うのが決まりのようなものだから、気づいたら雄哉の部屋の前に立っていた。
とりあえず、セックスがしたい。けど呼び出すことすら面倒で。雄哉じゃなくちゃいけないわけじゃなかったけど、ここにくればとりあえず雄哉はいるし、いればセックスが出来る。

「あの…」

隣から声がした。自分に話しかけているのだろうか、と顔をあげると、これまた可愛らしい男の子が立っていた。

「雄哉くんのお友達…?」

身長差からしょうがない上目遣い気味になんだか無性に興奮した。毎日していたセックスを一週間していなかったせいだろうか。
今日の雄哉の相手か、と冷静に脳内で整理したら余計興奮した。
スイッチがはいった。

「まあ、そんなとこかな。君は?」
「僕は、その…雄哉くんの…」

なんだか頬を赤らめもじもじとする男の子。もしかして、恋人とか言いだすのか。それもそれでいいな。ああ、この子とセックスしたい。

「違くて、君の名前は?」
「僕?」

うん、と笑顔を見せる。魅せるって字の方があってるかも。

「僕は、綾文」
「あやふみちゃんか…じゃ、綾ちゃんだね…可愛い」
一瞬で顔を赤くし俯く。可愛い。

「お、女みたいで恥ずかしいでしょ?」
「そんなことないよ、可愛い名前だよ」

つむじに吐息を吹き掛けながら、可愛い君にぴったりだねと囁く。

「そ、んな…」
「本当に可愛いな…」
「え?」

顔を上げた綾ちゃんは予想以上に近くて、赤くて、可愛かった。

「ねえ、綾ちゃん」
「あ、ちょっ…」
「俺にしなよ」
「あっ…」

唇をあわせる。柔らかい。ちゃんと手入れしてるんだろうな、雄哉を想って。
竹井さんの唇よりも柔らかくて暖かい。
思わず舌を入れようとしてしまって、上唇を少し舐めて離れた。

「綾ちゃん…ちょっと散歩にいこ?」

ちょっとで済ますつもりなんか毛頭ないけど。





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