目がさめた時には、すでに夕方だった。
起きると眠りについたときと同じ体制、つまり雄哉に抱きしめられたままだった。雄哉は既に目が醒めていたらしく、三時間近く俺は見つめられていたらしい。
「…今何時?」
「五時くらい」
「マジかよ、やべっ」
今日は六時からバイトが入っていた。ベッドから飛び降りて落ちていた衣類を身に付ける。
「え…樹海…?」
「六時からバイトなんだわ、帰る」
急いで洗面所で歯磨き洗顔、雄哉のだと思われるワックスを少々借りてセットオッケー。
リビングに戻ると着替えた雄哉がいた。
「送るよ」
「え…?」
「バイクあるし」
もうちょっと、一緒にいよう。と抱きしめられた。
「ていうか…」
ていうか、いつの間にバイクなんて買ったんだ。
言おうとして、口をつぐんだ。そこまで俺が干渉することでもないか。
「何?」
「いや…コーヒーいれて」
「一緒に来て」
雄哉は俺の手を握ってキッチンまで来たと思ったら、俺の後ろに立ち、肩に顎を乗せ、やりにくそうにポットとマグカップとインスタントコーヒーを使い、コーヒーを作り上げた。この体制も雄哉の行動も意味わからん。
片手にコーヒーを二つ持ち、もう片手を俺の腰に回しソファーに腰をおろした。コーヒーをすすっている間も雄哉は俺に擦り寄っていた。
「お前、どうしたんだよ」
「何が?」
「すげぇ、甘えたじゃん」
俺の前の子が冷たかったのか、と言う前にその子と昨日一緒にいたことを思い出した。誰だっけ、名前忘れちったな…。
「俺、樹海のこと好きだから」
「え?あ、そうか」
こいつが言う好きっつーなは、多分戯れだろう。それか前戯の一種だ。だから、もう真に受けない。
「…樹海は?俺のこと、好き…?」
「ああ、好きだよ」
「そう」
俺もそんなもんだと割り切って言える。
なんだか満足したように、雄哉はさらに密着してきた。
その後、数回キスをして、マンションを後にし黒光りする始めてみた雄哉のバイクに跨がり、余裕をもってバイトには間に合う。
ヘルメットを外して雄哉に渡す。
「ここでいいから」
「バイト先まで送るよ」
「いや、いいから」
バイト先までは数メートルある公園で止まってもらった。きっと面倒くさいことになる。ヘルメットを押し渡して、食い下がろうとした雄哉の首に腕を回す。
「またね」
耳元で囁いて、耳たぶを甘噛みして離れる。雄哉は困ったように微笑んでいたのをちらりと見て手を振りながらバイト先へ走っていった。
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