2012/02/15 11:27
そんな感じで、まさにひょんなことから、俺は芸人の彼氏となった。
気付いたら、付き合って半年がすぎようとしていて、俺の家は大賀さん改めトシのマンションになっていた。
「俺、よっちゃんのためにチャーハンつくるわ」
そう言ってキッチンに敏輝は立つ。今日は居酒屋のバイトはオフらしい。
オフの時は必ずチャーハンを作ってくれる。流れに乗ってここまで来たけど、トシは別に悪いやつではない。
「としちゃんの愛をたっぷり入れてな!」
こうやって愛を込めてチャーハンを作ってくれる。
笑顔がなにより素敵なんだ。くしゃっ、とつぶれるまぶしい笑顔。俺はこれが好きだ。
そのチャーハンをおいしいって言いながら食べると、これまたトシは嬉しそうに笑う。たまに、こんなに素敵な笑顔をする人を世間が知らないことに同情する。
「……より…」
「んっ…、とし…」
チャーハンを食べ、しあわせな気持ちに浸りながら、俺たちは身体を重ねる。
はじめてのがどんなだったかだなんて覚えてないけど、トシとのセックスは気持ち良かった。酔っぱらって知らない、しかも男とアヤマチを犯すようには感じられないくらい、優しい手つきだった。
「……頼は」
「ん?」
二人並んで事後の余韻に浸りながら、布団に潜る。前髪をいじってくるのはトシのクセだ。
「…俺が、初めての男ちゃうんやろ…?」
目が寂しそうだったから、嘘をついてしまいたくなった。トシは嘘が大嫌いだとこの半年間毎日のように言っていた。
「うっ…まあ…」
「何人と寝たん?」
「……三人ほど…」
「…ふうーん…ほな、」
手をぎゅ、と握りしめてきたトシはまた俺の上を跨いだ。
「これからは、そいつら忘れるくらい気持ちよーさせたる。あと三回はせんとな!」
さ、三回…?だってもう…
「あっ、ちょっ…トシ、っ!」
「…頼、好きや」
そんなこと言われたら、付き合うしかなくなってしまう。
ぼんやりする頭の中で今も俺は心の中でつぶやいた。
俺の名前は、りが下がるの。よ、り。
俺が今まで接してきた人たちはみんな関東の人だったから、関西の訛で呼ばれることは、トシだけだった。