2012/02/03 22:17




友人たちと居酒屋をあとにしようと会計をしている間、ふ、と店内のカウンターで飲んでいる男の人に目がとまった。
その人だけオーラが違って見えて。キラ、と何かを感じた瞬間に思い出した。
あの人は、芸人だって。

姉ちゃんがお笑い好きでたまに一緒に番組やら舞台やらを見ていた。その時、見た人だ。

「…大賀さん、ですよね?」

そっと近づいて、出来るだけ小声で尋ねた。
東京で、しかもひとりで呑んでる時に声をかけるだなんてマナー違反だとはわかっていたけど、俺は彼の笑いが好きだった。淡々とした漫才の中から溢れてくるユーモアな彼の世界観が大好きだった。
さらに、関西で活躍していた彼が今ここにいることと、ここ最近一切テレビでもネット番組でも見かけなかったことがあい交ざった結果だった。
彼は、俺を見上げて目を見開いてから目を潤ませ抱きついてきた。

「そうやぁ!俺は大賀敏輝やぁ!」

そこから彼は泣き始めてしまった。そんな姿を見捨てられるわけもなく、友達には先に帰ってもらうように言って、俺は大賀さんの隣に座って話を聞いてあげた。
泣きながら、酒をあおりながら。彼が話した内容はつまりこうだ。

大阪でデビューして一年もせずにそこそこ人気がでてきて天狗になったあげく、ひとり上京。そんな身勝手な大賀さんに相方は愛想つかしてコンビは解散。ピンでもやっていけると思ったものの、事務所にもなんにも相談なしにいきなり上京したため、最後の砦である事務所にも嫌われてしまい、仕事ゼロ。アルバイトの毎日。

「大阪だと町を歩きゃー、キャーキャー言われたんや…それなのに…東京のやつら、俺のこと一切知らんねん!なんやねん?!」

ありえへんわーぼけぇー!
そう嘆きながら大賀さんはジョッキを煽る。店員の対応からするとこれが初めてではないようだ。
それから大賀さんをなだめながら、少しつまんだり呑んだり。大賀さんの笑いが好きだったことを出来るだけ具体的に言葉を選びながら伝えた。すると気持ちが伝わったからなのか、今度は号泣し出した。
おおきに、おおきに、と俺の手を握り締めて泣いていた大賀さんに微笑みかけたところまでは覚えている。
そう、確かに覚えているんだ。

それ以降、今までの時間が俺の記憶にない。
知らない部屋にいる。ちらかっていて、生活感をマックスで感じる。
その知らない部屋の狭いベッドに昨日出会った大賀さんと、なぜ全裸で寝ているのか。おまけに下半身に、ものすごい違和感。
ああ、やってしまったのか。今になって、ほどほどにしとけよと言ってくれた友達が恋しくてたまらない。

「んー…」

もそり、と隣にいる人物が動きだした。近くのテーブルにおいてあったメガネをかけた寝起きの大賀さんと目があった。

「あー…あー、そっか…あー…おはよ」

頭を押さえながら、言った大賀さんに戸惑いながらも挨拶だけは返す。
布団をめくり、中を若干覗いてから、仰向けに布団に埋もれた彼をじっと見続ける。しばらく天井を見つめた彼は口を開いた。

「ほな…付き合おうかっ」

にっかし、とまぶしい笑顔を向けてきた大賀さんに心底驚いた。

「いや、あの…」
「自分、名前は?」
「…木田、頼です…」
「より?よっちゃんか!かわえーなー」
「っ、ちょっんむっ」

にこにこしながら、じりじりと詰め寄ってきて、最終的には腕力で引き寄せられてキスをした。そのまま、しっかりとフルコースされました。

そんな俺たちの始まり。






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